COLUMN

DBJ脱炭素セミナー
~逆風下の脱炭素:欧州の最新動向と日本企業への示唆~

主催:株式会社日本政策投資銀行(以下、「DBJ」)/DBJ Europe Limited
※所属・役職は2026年1月当時のものです。

本セミナーは、地政学リスクの高まりにより脱炭素推進の道筋に不確実性が増す中、欧州における最新動向を理解し、日本企業への示唆を考察する機会として、広島・名古屋で開催されました。
はじめに、イノベーションや変革を支援するグローバルコンサルティングファームであるPAコンサルティングのDavid Sanders氏・Etienne Teyssandier氏より、欧州の最新動向について講演が行われました。

欧州の関心は「脱炭素」から「レジリエントな社会構築」に拡大している

ロシアによるウクライナ侵攻は欧州のエネルギー政策における転換点となりました。これにより、電力価格が急騰し、エネルギーミックスにも大きな影響を与えました。また、政治的不確実性の高まりは、気候変動目標の達成に向けたモメンタムに逆風をもたらしています。
一方で、電力需要は今後増加することが想定されます。背景には、データセンターやAI分野において常時安定した電力供給に対する大規模な需要が新たに生じていることを含め、複数の要因があります。
このような困難な状況下においても、公的セクターおよび民間企業の双方が、外部環境の変化を踏まえた、より戦略的かつ的を絞ったアプローチにより、脱炭素に向けた取組を継続しています。これは、脱炭素が、経済安全保障や産業競争力の強化の観点からも、極めて重要な課題として再定義されたためです。


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David Sanders 氏
PA Consulting

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公的セクターおよび民間セクターの取組の変化(PAコンサルティング作成)

採算性やバンカビリティが、脱炭素化に向けたハードルに

PAコンサルティングのDavid Sandersから説明した政治的圧力や電力需要の増加に加え、技術の成熟も相まって、脱炭素化に向けたエネルギーバリューチェーン全体におけるリスクと機会の構図が変化しつつあります。もちろん、その分野ごとに状況は異なりますが、技術の成熟が主要なハードルではなくなっている領域もあり、採算性やバンカビリティの進展に主眼が移っています。日本企業にとっても、自社のリスクプロファイルに適した分野を選択することで参画可能なプロジェクトもあると考えています。

英国およびEUでは日本企業にも影響を与え得る政策面での動きが複数予定されており、2026年にはEU CBAM(炭素国境調整メカニズム)※1が本格導入を迎えます。また、EUが新車・バンの2035年排出目標について、CO₂排出削減率を100%から90%へ引き下げる提案を行っているように、既存の目標が見直される可能性もあります。欧州エネルギー市場の動向には、引き続き注意が必要です。

※1 EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)は、特定の高炭素製品の輸入に対し、その生産時に排出された炭素量を基に、EU域内の生産者がEU排出量取引制度の下で負担するのと同等の炭素コストを課すことを目的とした制度のこと

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Etienne Teyssandier 氏
PA Consulting

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欧州エネルギー市場での注目ポイント(PAコンサルティング作成)

日本のサステナビリティ経営の潮流、手段としてのクロスボーダーM&A

PAコンサルティングから続けてエネルギー業界、運輸・交通業界での動きについてより詳細の考察を講演いただいた後、DBJサステナブルソリューション部の品川彩花よりサステナビリティ経営の潮流について、DBJ企業戦略部の大久保敏之・望月亮佑よりクロスボーダーM&Aマーケットのトレンドについて、講演が行われました。

サステナビリティ経営は、従来のCSR活動や個別のESG取組にとどまらず、ESG取組を経営戦略に統合し、「稼ぐ力」との両立を目指すものへと進展しています。特に、東京証券取引所がPBR1倍割れの企業に対して改善策の検討を要請したことを契機に、企業には中長期的な企業価値向上を実現するための戦略・施策の策定がこれまで以上に求められています。サステナビリティ経営は、持続的な企業価値向上に向けた統合的な経営テーマとして位置づけられ、今後はその取組をステークホルダーに発信するとともに、対話を深めることが重要となっています。

M&Aは自社内部では実現が難しい、または、相応の時間を要する経営戦略を実現するための手法です。日系企業は海外進出を加速させており、クロスボーダーのM&Aは増加傾向にあります。脱炭素分野においても、日本企業による水素・アンモニアといった次世代エネルギーや気候テックスタートアップ関連のM&Aが増えており、持続可能なビジネス展開のための一つの手段としてM&Aが検討されていることが分かりました。

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株式会社日本政策投資銀行
サステナブルソリューション部
品川 彩花

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株式会社日本政策投資銀行
企業戦略部
大久保 敏之

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株式会社日本政策投資銀行
企業戦略部
望月 亮佑

終わりに

近年、災害の頻発化など気候変動の影響が現実のものとなり、脱炭素はあらゆる業界で喫緊の課題です。また、その影響はサプライチェーン全体に及んでいます。一方で、外部環境は目まぐるしく変化し、企業の経営判断は一層難しくなっています。
本セミナーが、ご参加いただいた企業様の経営課題解決に向けた一助となっておりましたら幸いです。

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この記事は季刊DBJ に掲載されています

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