COLUMN

DBJ防災トランスフォーメーションフォーラム

主催:株式会社日本政策投資銀行
後援:内閣府
※ご所属・役職は2025年9月8日当時

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DBJ防災トランスフォーメーションフォーラムは、頻発する大規模な自然災害に対し、企業はどのように防災対策を経営戦略の一つとして位置付け持続可能性を高めるのか、防災技術をいかにビジネスへ発展させるか等について、政策動向と最新潮流を踏まえて産官学で議論する場として開催されました。

内閣府特命担当大臣の坂井学氏の主賓挨拶、株式会社日本政策投資銀行 代表取締役会長の太田充の開会挨拶の後、第一部では、内閣府 防災監の長橋和久氏、および株式会社日本政策投資銀行 取締役常務執行役員の田原泰雅による基調講演が行われました。

主賓挨拶

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内閣府 特命担当大臣(防災)
坂井 学氏

我が国は世界有数の災害大国であり、南海トラフ地震や首都直下地震などがいつ発生してもおかしくない状況です。そうしたなか、政府は被害想定の見直しなどを進めながら対策に取り組んでいますが、大規模な災害に立ち向かうには行政だけでは限界があり、企業や地域社会など我が国の総力を挙げることが必要とされています。とりわけ企業の皆様の役割は大きく、地域の生活や雇用を守り、被災地の早期復旧・復興を進めるための事業継続計画(BCP)の策定と、その実効性の確保がきわめて重要です。

さらに、我が国の防災技術は、新たなビジネス機会を創出する側面もあります。災害に対応する技術やサービス、リスク分析、資金調達や保険等の金融のスキームなど、防災はイノベーションの源泉となり、同時に国際社会への貢献にも通じるものです。内閣府としても、BCP策定のガイドラインを充実させるとともに、自治体と企業のビジネスマッチングの場として「防災×テクノロジー官民連携プラットフォーム」を展開するなど、防災産業の育成に向けた取り組みを積極的に推進しています。

本日のイベントは、企業防災の重要性や、実践的な取り組みについて理解を深め、防災を新たな産業領域として捉え、その可能性が議論される場だと聞いています。本日の議論が、我が国のさらなるレジリエンスの強化につながり、防災産業の発展のきっかけとなることを大いに期待しています。

主催者挨拶

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株式会社日本政策投資銀行 代表取締役会長
太田 充

私ども日本政策投資銀行は、災害後の復旧・復興サポートに取り組むことに加え、事前の防災分野においても貢献できると考え、これまでもさまざまな活動を展開してまいりました。

一般的に、防災対策は企業にとって大きなコストを伴う取り組みと捉えられがちです。しかし、我が国は災害リスクの高い地域であり、発災時の被害を最小化することは、企業経営にとってのみならず社会の持続性確保の観点のうえでも極めて重要です。

防災への取り組みが市場から正当に評価され、単なるコストではなく、企業価値向上につながる活動として認識される環境づくりが求められます。また防災は新たなビジネス創出の機会でもあり、優れた防災サービスの普及は事業拡大にも結びつきます。弊行としても、こうした取り組みを積極的にサポートしていくことが使命であると考えております。

本フォーラムでは、行政、学術、産業界の第一線で活躍される有識者の皆様にご参加いただき、議論を深めていただきます。本フォーラムが防災への理解促進と新たな動きの創出につながり、我が国のより良い未来の実現に貢献することを願っております。

第一部

基調講演①

大規模災害に備える企業の責任と、防災産業の展望

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内閣府 防災監
長橋 和久氏

昨今、我が国では毎年のように大規模な自然災害に見舞われています。南海トラフ地震や首都直下地震などの激甚な災害も想定されており、もし南海トラフ地震が発生すれば、数十万人の国民の生命が失われ、経済損失は最悪の場合、GDPの4割にも及ぶと試算されています。こうした国難に対応するべく政府も体制を強化しており、来年度(令和8年度)に防災庁が新たに設置される予定です。

防災庁は、中長期視点から我が国の防災のあり方を構想するとともに、徹底した事前防災、さらに災害発生時から復旧復興まで一貫して対応するための司令塔となる組織です。目的の達成に向けて様々な取り組みを推進する方針ですが、企業のBCPも防災・減災に資する重要なテーマとして認識しています。国内企業のBCP策定率が100%になれば、巨大地震に遭遇しても経済被害が数兆円規模で軽減されるとの試算もあり、普及啓発にいっそう努めていきます。

また、防災産業の育成も推進すべき政策の一つに掲げ、令和3年度から運用している「防災×テクノロジー官民連携プラットフォーム」のさらなる拡大を図っています。これは、災害対応を行う地方公共団体等のニーズと、民間企業等が持つ先進技術やサービスとのマッチングを行う場として設立されましたが、令和7年度から企業間のマッチングも開始しました。ここから創出された新たな技術やサービスを国内の防災に活かす一方、国際的にも展開して世界の防災市場をリードする「防災産業」を育成し、日本の国力向上にも繋げていく考えです。

基調講演②

防災レジリエンス分野におけるDBJの取り組みと今後の方向性

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株式会社日本政策投資銀行 取締役常務執行役員
田原 泰雅

DBJは、持続可能な社会の実現を目指して、経済価値と社会価値の両立を図るサステナビリティ経営を推進しています。その中で、しなやかで強い安心安全な地域社会や産業基盤を構築する"Resilience & Recovery"を事業戦略の一つに掲げており、今回のテーマである防災に関しても、お客様のリスクを低減するとともに、社会課題の解決を通じて持続的な成長を実現する伴走パートナーを目指しています。

そのための有力な手段の一つが「DBJサステナビリティ評価認証融資」における、BCM(事業継続マネジメント)格付による融資です。これは、BCMへの取り組みを企業価値に反映させるべく、防災対策と事業継続対策をともに充実させている企業を評価し、ファイナンスを通して防災レジリエンス強化をサポートするものです。先ほど長橋防災監からお話がありましたように、災害リスクは事前投資によって大きく軽減することが可能であり、防災対策を経営戦略の一つとして捉える必要があります。加えて、行政や地域社会なども含めた連携も重要であり、地域全体のレジリエンスに貢献することは、自社の事業継続や事業機会の獲得にも繋がり、企業価値向上が期待できます。

また、DBJは防災関連スタートアップへの投資等を通じて、災害予測や避難支援などの新たなソリューション創出にも貢献しています。こうして防災のビジネス機会化を図り、日本発のソリューションの海外展開をサポートすることで、金融機関の立場から企業や社会全体のレジリエンス向上に寄与していきます。

第二部

基調講演に続いて、第二部では、有識者によるパネルディスカッションが実施されました。

パネルディスカッション①

企業防災のあるべき姿

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名古屋工業大学 大学院 
工学研究科 社会工学専攻教授
渡辺 研司氏
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株式会社ディスコ 
サポート本部施設管理部 BCM推進グループリーダー
石井 秀明氏
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鈴与株式会社 
危機管理室長
織戸 邦明氏
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一般財団法人SGH防災サポート財団 
プロジェクトマネージャー
山本 健人氏
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株式会社日本政策投資銀行 
サステナブルソリューション部長
布施 健

パネルディスカッション①のテーマは「企業防災のあるべき姿」。アカデミアやビジネスの第一線で防災に関わる4名の方が登壇され、まずそれぞれ取り組まれていることを発表しました。

リスクマネジメントや事業継続マネジメントの専門家である、名古屋工業大学大学院教授の渡辺氏は、これまでの企業のBCMの失敗事例から共通要因を探り、ビジネスインパクトやソーシャルインパクトを考慮しない自社優先の事業復旧や、トップコミットメントの欠如などが失敗を招いていると指摘。そこに陥らないための経営戦略について考察をいただきました。

半導体製造装置で世界トップクラスのメーカーである株式会社ディスコの石井氏は、同社では、不慮の事態でも自社製品を安定供給し続けられることが世界の顧客からの信頼を獲得するという考えのもと、BCMが他社と差別化できる企業競争力になるといち早く経営層が認識し、事業継続そのものを企業理念に掲げて社員に浸透させていることを訴求されました。

物流を中心に多角的な事業を営む鈴与株式会社の織戸氏は、同社は経営のよりどころとして、浄土宗の僧侶であり、大正大学学長や衆議院議員も務めた椎尾辨匡氏が提唱した「共生(ともいき)」を据えていると紹介。この思想のもとでお客様や地域社会との「共生」を目指す、様々な社会貢献活動の事例を発表されました。

そして、佐川急便を中核とするSGホールディングスグループが設立したSGH防災サポート財団の山本氏は、当財団だからこそ担える使命があると強調。長らく物流に携わるSGホールディングスグループは、その事業インフラをもとに過去に数々の被災地支援を手がけ、迅速な物流や物資管理のノウハウを蓄積。それを活かして中立的な立場で国や自治体、企業をつなぐハブとなり、国の防災対策と財団の活動を一体的に機能させながら、災害に強く持続可能な社会の実現を目指すビジョンをアピールされました。

続いてのディスカッションでは、社会において企業防災への取り組みを加速させるためには何が必要なのか、パネリストの方に意見をうかがいました。「災害に備えたBCPの策定や物資の備蓄は、自社完結型の取り組みになりやすいが、実は地域行政との連携が不可欠。その意識を持って継続させることが重要」(山本氏)、「社員の危機管理意識をもっと高め、取り組むべき防災対策を明確にし、業務の中で劣後しない風土を築くことが大切」(織戸氏)、「社員の意識を高めるためには、経営層のリーダーシップがやはり必要。BCMは即効性のある投資ではないため、社員もなかなか当事者意識をもちにくい。だからこそ経営からの密な情報発信が重要だと考える」(石井氏)、「企業理念が明確で社員に浸透している会社は、BCMに限らず、企業価値向上のために本質的にやるべきことがすぐに実行に移される。しかし、そうではない会社、経営者にその意識がない会社は、BCM担当者がとても苦労している。その状況を変えるのは容易ではないが、外圧なども積極的に利用すべきではないか」(渡辺氏)など、活発に意見が交わされました。

さらに、DBJをはじめとする金融機関に対しては、平時の防災投資への支援や被災時の迅速な金融援助はもとより、外部から経営層に働きかけて対話を重ね、一緒に長期的な目線を持って企業防災に取り組んでほしいという期待の声も寄せられ、第一部のパネルディスカッションは幕を閉じました。

パネルディスカッション②

防災の産業化と国際ルール形成への挑戦

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株式会社Aster 
代表取締役CEO
鈴木 正臣氏
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株式会社バカン 
代表取締役
河野 剛進氏
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株式会社RTi-cast 
CTO
東北大学災害科学国際研究所
副所長・教授
越村 俊一氏
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株式会社日本政策投資銀行 
設備投資研究所 主任研究員
蛭間 芳樹
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株式会社日本政策投資銀行 
サステナブルソリューション部長
布施 健

パネルディスカッション②は「防災の産業化と国際ルール形成への挑戦」をテーマに、防災のための新たな技術やサービスの開発に挑むスタートアップの経営者3名の方を招き、DBJ設備投資研究所の主任研究員も交えたパネルディスカッションが行われました。まず導入として、防災の産業化と国際ルール形成に挑戦するDBJの取り組みについて、設備投資研究所の蛭間によるプレゼンテーションがありました。近年、DBJは長期的な社会変革を重視したイノベーション投資にも注力しており、投資先企業の経営にも参画しながら持続的な事業モデルを構築し、新たな社会システムの創造に挑んでいること、そして、防災やレジリエンス強化のためには事前投資が重要であり、DBJが政府とともに事前防災投資に関しての国際規格づくりを進めていることを紹介。防災の領域ではぜひ日本がイニシアチブをとって世界に貢献していきたいという、蛭間自身の熱い思いもあわせて伝えられました。

続いて、防災スタートアップとして注目を集める3社の代表から、防災のビジネス機会化への具体的な取り組みについての説明がありました。東京大学発の耐震技術のスタートアップであるAster代表の鈴木氏は、かつてイタリアで地震の被害調査に参加し、悲惨な現場を目の当たりにした経験から「未来の子どもたちの命を地震災害から守りたい」という思いから起業されたとのこと。それまで培ってきた建築技術をもとに、東大で地震研究に取り組むメンバーとともにAsterを立ち上げ、壁面にコーティングするだけで建物の強度を劇的に高める革新的な耐震塗料を開発提供しています。鈴木氏は「これを世界に普及させることで脆弱な建物をなくし、地震犠牲者をゼロにすることがAsterの掲げるミッション。人類の歴史を変えたい」と意気込んでいます。

また、AIテクノロジーで人流を可視化・最適化するDXを提供する株式会社バカンの河野氏は、「我々のソリューションを災害時の避難所の空き状況の可視化に活用し、被災者の力になりたい」と語ります。すでに防災分野でのサービスを展開しており、避難所の管理運営にかかる自治体職員の負担を大幅に削減しつつ、住民の方々が容易に避難所にチェックインし、ストレスなく過ごせるシステムのさらなる高度化を図っています。河野氏は「まだまだ我々のサービスは発展途上。今後は避難所の需要予測が可能な仕組みなどを搭載してさらにソリューションに磨きをかけ、バカンのミッションである『人と空間をテクノロジーで優しくつなぐ』を追求したい」と訴えます。

そして、東北大学発のスタートアップである株式会社RTi-castでCTOを務める越村氏は、津波の予測に挑んでいます。津波工学、地球物理学、計算機工学などの様々な専門分野の研究者によって築かれた「リアルタイム津波浸水・被害予測技術」を社会に実装するために大学発ベンチャーのRTi-castを立ち上げ、越村氏をはじめ研究者が自ら株主として経営に参画しています。この技術は、津波の高さだけではなく、浸水域や起こりうる被害までを予測して迅速に配信するもので、気象庁の津波予報では得られない世界唯一の予測情報を提供しているとのこと。越村氏自身も東日本大震災で辛い経験を味わい、「この独自の技術で、災害を生き残る、生き延びる、素早く立ち直る社会を実現することに貢献したい」と思いを語ります。

この3社のプレゼンを受けて、DBJの蛭間が「防災スタートアップの方々が直面する障壁を乗り越えられるように、志を同じくしてより連携を密にしていきたい」という決意を述べて第二部のパネルディスカッションは終了。

最後に株式会社日本政策投資銀行 代表取締役社長の地下誠二の挨拶をもって本フォーラムは閉会となりました。

閉会挨拶

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株式会社日本政策投資銀行 代表取締役社長
地下 誠二

本日はお忙しいところ、多数の方にご参加いただき誠にありがとうございます。冒頭に内閣府の坂井大臣、長橋防災監より力強いメッセージをいただき、また、パネリストの皆様からも有益な知見をご提供いただいて、私自身多くの示唆を頂戴するとともに皆様にとっても有意義な時間になったものと存じます。

本日のパネルディスカッション①では、かつては地域や企業によって差の大きかった防災対策ですが、現在では企業の方々が多方面で高度な取り組みをされていることを伺い、防災対策への意識が高まり、ビジネスの現場から社会をより良い方向に動かしていると大変頼もしく感じた次第です。今後、防災対策にコストをかけることで企業価値につながる仕組みづくりが必要であり、当行の蛭間からも話があった通り、我々DBJグループがその仕組みを築いて国際標準化をリードしていきたいと考えています。

また、パネルディスカッション②では、防災を進化させる新たなテクノロジーについてご紹介いただきましたが、これは日本が世界に貢献しながら自らも成長できる有望な領域だとあらためて認識しました。災害の多い島国に生まれた宿命を逆手にとって、社会への貢献と経済の成長につなげていく、そうした取り組みに我々DBJグループは大いに貢献してまいりますので、皆様もぜひご賛同いただければと思っています。

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※パネルディスカッション②に関連する内容について、季刊DBJ(No.58)にて座談会を掲載しています。
https://www.dbj.jp/co/info/quarterly/nextjapan/58-2.html

この記事は季刊DBJ に掲載されています

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