日本政策投資銀行

  • News Release
  • 平成18年3月30日
  • 日本政策投資銀行

『歴史とともに歩んだ街』:
産業転換期を迎えた呉地域の課題と方向性

日本政策投資銀行中国支店は、中国地方の基幹産業である製造業の活性化を通じた地域の活力創出を「中期地域づくり活動ビジョン」に掲げ、各種活動に取り組んでおります。昨年度には、第一歩として調査レポート「『産業集積マップ』から考える中国地方製造業の産業構造」を発表しました。その後も、自らの地域に立地する産業の強み弱みについて把握し、強みや個性を一層伸ばす施策を応援することを目的として、当地方内の地域ごとに見た製造業の特色と展望などについて調査を続けております。

この度、呉地域に着目し、調査レポート「『歴史とともに歩んだ街』:産業転換期を迎えた呉地域の課題と方向性」を取りまとめました。

要旨

  1. 呉地域は、明治初期の呉鎮守府開庁を契機に、日本有数の軍事都市に成長した。終戦後は旧軍港市転換法に基づいて旧軍資産を活用した復興を遂げ、現在では中国地方有数の「ものづくり」の拠点となっている。
  2. 産業は、鉄鋼・金属・一般機械・輸送用機械といった重厚長大産業のウエィトが高い上にその構造は40年以上変化しておらず、所謂『産業構造の偏重』が見られる。地場企業の発展系譜に着目すると、「工廠技術応用型」、「工廠跡地進出型」、「大手企業一体型」、「伝統産業派生型」の4つのパターンに分類することができた。

    人口はオイルショックを境に漸減傾向にあり、団塊の世代以上の構成比が高いことから、高齢化も進んでいる。雇用においては、地元の大学の卒業者の多くが呉地域で就職せずに域外に転出している一方、地場企業は、域外の大学を中心に採用を実施しており、『雇用のミスマッチ』が起こっている。

  3. 旧工廠都市(佐世保市、舞鶴市、横須賀市)と比較すると、呉市を含む4都市は、総じて多くの共通項を有しており、似たような発展を遂げ、同様の課題を抱えていることが分かった。

    また、呉地域で実施したインタビューからは、前述の課題が検証できたのに加え、『後継者不足』、『堅実で保守的な気質』といった新たな課題が見られた。

  4. 当地域の今後のあり方について、若干の考察・提言を行う。
    『産業構造の偏重』 外部資源の導入は極めてハードルが高く、堅実な道筋ではない。地元に所在するリソースの再構築と、それを組み合わせた新たな産業創造に向けた官民協働の取り組みが求められる。
    『雇用のミスマッチ』 地域が有する重要な資産である、大学等を有効活用することが期待される。大学は、地場企業が求める人材育成カリキュラム作成等に努め、地場企業は地元の大学をもう少し理解し、地元から採用するよう心掛ける。
    『後継者不足』 本質的な問題点は、後継ぎがいないという事実ではなく、事業継承のシステムが確立されていないことにある。その選択肢の一つとして、ファンドの活用が考えられないだろうか。
    『堅実で保守的な気質』 競争がグローバル化していて、変化が求められる時代においては、起業家マインドの醸成といった今の時代に適合した発想が求められてくる。当地域の方々が有する『誇り』を持ちつつチャレンジすることを期待する。

以上