日本政策投資銀行

  • News Release
  • 平成17年6月
  • 日本政策投資銀行

欧米地域金融調査~欧米地域金融手法と我が国への示唆~
「米国のコミュニティ開発金融機関と支援の仕組み」
「カナダの地域金融とクレジットユニオン」
「イタリアの地域金融と相互保証システム」

1. 米国 「米国のコミュニティ開発金融機関と支援の仕組み」

米国では、コミュニティ開発金融機関(CDFIs:Community Development Financial Institutions)が主な役割を担っている。CDFIsは、コミュニティの細かな資金ニーズに対応した活動を目的とする銀行、信用組合、非営利法人で、財務省のCDFIファンドにより認定された組織であり、全米で625機関存在する。

CDFIsは金融自由化後にコミュニティで金融空白エリアが発生したことをきっかけに制定された地域再投資法 (’77)の実施機関としての位置づけにある。同法では、低所得者層向け等への貢献を求めており、90年には監視機関が各機関の実績を監視し格付するという活動も開始されている。

CDFIsの規模は非常に小さく、総資産1億ドル未満のレベルと推定されている。日本の地銀、第二地銀はもとより、同じようにコミュニティを対象にしていると考えられる信用金庫(平均貸付金残高2千億円)、信用組合(同5百億円)に比べても、はるかに小さな規模である。

CDFIsの大きな特徴としては、教会等の地域の非営利団体から地域情報を入手して貸出を行うことによりリスクを下げている点があげられる。また、借り手に単に貸すだけでなく借り方や返し方を直接指導することによる回収率の引き上げも行われている。典型的なリレーションシップ・バンキングのビジネスモデルである。このほかにも、財務省CDFIファンドによる機関設立支援、補助金、技術支援などの公的支援、さらには、民間支援として非営利財団、業界団体等が設立する中間支援組織によるテクニカル・アシスタンスなどが注目すべき特徴である。

2. カナダ 「カナダの地域金融とクレジットユニオン」

カナダの地域金融を支えているのは、協同組合型金融機関である。これらの金融機関は英語圏地域ではクレジット・ユニオン、フランス語圏地域ではケース・ポピュレールと呼ばれている。同国では上位5,6行の大手金融機関が圧倒的なシェアを有する寡占状態にあるが、一方では、個人、中小企業への融資を行う機関として協同組合組織が位置づけられている。最大の特徴は加盟率が非常に高い点である。全国加入率は33%であり、国民の3人に一人がこの組合のいずれかに加盟していることになる。組合の立場からこの状況を評価すると、“取引情報源が豊富であり、これを蓄積、分析していけば顧客自身だけでなく、顧客が活動している地域全体の経済の様子が手に取るように分かる”ということになる。

その結果、地域のニーズに合致したきめ細かなサービスが可能になる。現地で行われている顧客満足度調査によると、協同組合金融機関の雄であるクレジット・ユニオンでは、「事業内容への理解」、「融資マネージャーの対応」、「ファイナンス時の情報」など9項目中7項目でビッグ6を上回って一位の評価を得ている。

規模は、組合の統計から類推すると一組合あたりの総資産規模が日本円で100億円を下回る程度であり、米国同様小規模である。資金面、技術面での支援としては、個別機関-州組織-全国組織の三層構造による支援システムが存在する。

3. イタリア 「イタリアの地域金融と相互保証システム」

イタリアの地域金融システムの特徴は、CONFIDIと呼ばれる相互保証コンソーシアムである。CONFIDIは、もともと職能別の同業者団体を中心に組織された相互扶助組織であり、60年代に北部で設立された後、70年代には全国で広まり、現在全国で1000以上の機関が存在する。

特徴は、融資金融機関に対する保証という形態を取っている点である。しかも、この保証は相互保証かつ部分保証(債務の10%~20%に対して保証する)である。相互保証とは、ある企業がCONFIDIの保証を受ける場合は、保証料に加えて、自分の保証債務の同額分保証するということである。この仕組みが機能しているのは、同業者組合がコミュニティの担い手として強固な基盤を持っており、企業が借入を返済せず結果的に他の同業者に不義理をするということが、このコミュニティでは生きていけなくなることを意味するからである。保証の裏付けとなる基金は被保証企業の会費によってまかなわれている。会員にならなければ金融機関からの借入が事実上困難だからである。

米国、カナダでは大きな特徴であった規模に関しては、CONFIDIは保証機関であるため一概には比較できないが、リスク基金の規模と部分保証率水準から逆算すると500~700億円がCONFIDI一機関あたりの保証債務残になっている。

4. 我が国への示唆

  1. 情報を正確に集め地域の課題と可能性を把握することの重要性

    米国、カナダ、イタリアとも地域・企業情報を集めるための独自の情報基盤を持っている。日本においても、行政、商工会議所、商店会、町内会、PTA、NPO等の地域機関との連携を図っていくことが必要である。

  2. リスク低減策の工夫

    米国、カナダ、イタリアとも上記の地域・企業情報を集めるための独自の情報基盤の活用と、テクニカル・アシスタンス(借り手に単に貸すだけでなく借り方や返し方を直接指導)によるリスク低減を図っている。日本においても、地域特性に対応したリスク低減策が必要である。

  3. 地域金融を支援する仕組みづくり

    米国(連邦機関、民間中間支援組織による支援)、カナダ(業界支援組織による支援)等地域金融を支援する仕組みが存在する。日本においても、地域特性に応じて地域金融を支援する仕組みづくりが必要である。

  4. コミュニティを生かした金融手法の重要性  相互保証システム

    イタリアの相互保証コンソーシアムCONFIDIは、コミュニティを生かした相互保証システムによりモラルハザードを防ぎ、借入人への返済圧力を高める仕組みづくりに成功している。日本においても、コミュニティを生かした金融手法の検討が必要である。

以 上