COLUMN

工芸シンポジウム
「伝統と未来を考える」
~いま、求められる革新とは~

主催:株式会社日本政策投資銀行/一般社団法人日本工芸産地協会/読売新聞社
協力:株式会社日本経済研究所/株式会社日テレ アックスオン

本シンポジウムは能登半島地震により大きな被害を受けた輪島塗の復興をはじめ、地域創生のための重要な資源である「工芸」を安定的に産業として継承していくためにいま何が必要かを考え、発展に向けた可能性を探る機会として開催されました。冒頭に株式会社能作の能作克治氏、株式会社日本政策投資銀行の宮川暁世による基調講演が行われました。

基調講演1
これからの産地は「競争」から「共創」「共想」へ

2017年、日本各地の工芸の一番星を集めて「工芸大国 日本」を目指そうということで日本工芸産地協会を立ち上げました。定期的に産地カンファレンスを実施して情報交換を行い、大阪・関西万博では4日間の工芸産地博覧会も実施します。このようにこれからの工芸産地は、注文を取り合う「競争」から共に想う「共想」、共に創る「共創」の時代に向かうと思います。また、能作は国内外に直営店を20店舗展開していますが、これからの作り手は、「自分で作って自分で売る」、そして製品を最後まで見届けることが大事だと思います。さらには海外への発信を行い、工芸を世界に届けること。海外との取引は短納期で大量注文の場合がありますが、工芸といえども技術革新をして対応できる体制を整えることが大事です。さらに大事なのはそうした機会を地域全体でカバーすること。共想、共創ができる産地のスタイルをどうつくるかが未来のカギになると思います。



株式会社能作 代表取締役会長 能作克治氏

一般社団法人日本工芸産地協会 会長
株式会社能作 代表取締役会長
能作克治氏

基調講演2
攻めと守りのマネジメントで正のスパイラルを生み出す

現在の伝統的工芸品業界衰退の外部要因としては、日本人の生活様式の変化、海外からの低価格な輸入品の流通などによる需要の減少があります。また、内部要因として伝統的工芸品の要件を守ることを重視するあまり、現代のニーズを捉えたデザインに挑戦ができないこと、手間に見合わない廉価な価格設定などがあります。需要の減退が職人・後継者不足を招く負のスパイラルから正のスパイラルに転換するためには、新商品・新サービスの提供、新たな顧客の開拓による需要の創造が不可欠です。今回は工場見学や海外直営店で新たな顧客を開拓した諏訪田製作所、海外向けにデザイナーと協業して商品開発に挑戦した百田陶園、鎌倉彫カフェで顧客との接点を創造した鎌倉彫会館、陶器を用いた新たなライフスタイルを提案した育陶園の事例を紹介しました。新商品・新サービス・新市場の創出と伝統的工芸品の維持・保存という攻めと守りのマネジメントで産地を盛り上げ、正のスパイラルを実現しましょう。



産業調査部長 宮川暁世

株式会社日本政策投資銀行 産業調査部長
宮川暁世

トークセッション
「工芸産地の未来を輪島と考える」

続いてトークセッションでは、日本を代表する工芸品の一つ輪島塗を通して、工芸の将来像や方向性、工芸全体の在り方などについて、2人の進行役と3人のパネラーによる熱心な議論が交わされました。
[進行] フリーアナウンサー 福田典子氏

千石あや氏

[パネラー]
株式会社中川政七商店 代表取締役社長
千石あや氏

田谷昂大氏

[パネラー]
株式会社田谷漆器店 プロデューサー
田谷昂大氏

古込和孝氏

[パネラー]
漆芸家、「輪島の未来のために」 代表
古込和孝氏

原岡知宏氏

[コーディネーター]
一般社団法人日本工芸産地協会 事務局長
原岡知宏氏

コーディネーターの原岡氏より輪島塗の生産額、従業者数の推移などの現状報告および3氏のパネラーの紹介があり、まず3氏から震災前後の取り組みについて報告がありました。田谷昂大氏は伝統工芸品を使ったことがない世代が増えているとし、クラフトとイートを組み合わせた「CRAFEAT」というレストランや「LIFT」という伝統工芸品のレンタルサービスを通じて入口を拡げています。また、輪島の復興についてはトレーラーハウスなどを活用した「輪島塗ビレッジ」を開き、各種体験ができる場を立ち上げています。古込和孝氏は職人の減少に危機感を持ち、若手が集う勉強会で作り手の在り方や消費者への伝え方を共有する活動に取り組み、震災後は百貨店、ギャラリーなどに声をかけ、輪島塗の販売機会をつくるために奔走しています。千石あや氏が代表を務める中川政七商店は、震災後に「北陸のものづくり展」を開催、短期間で3,000万円近い募金が集まり、売上の全額を被災地に寄付しています。

テーマの一つ「革新」については、田谷氏が「輪島塗の普遍的な価値を普通に伝えることが基本」としながらもキッチンツールの商品化やクラウドファンディングなどの試みが新しい流れをつくったと語ります。古込氏は職人一人ひとりが目指すべき価値やスペシャリティーを追究することが何より重要と指摘。千石氏は店頭やECでの販売を通じて漆器の身近さを伝えていくことが大切と語りました。未来を切り開くために解決すべき課題については、「産地の分業体制の崩壊が進んでいるため、復興の未来図を描くためにも各ジャンルの垂直統合が必要」(千石氏)、「企業との連携も含めたロードマップを描き、輪島を世界の漆芸のメッカにしていきたい」(田谷氏)、「求められているのは、数多くの器を手早くきれいに仕上げる職人技で、そうした人材を輩出するシステムの構築が喫緊の課題」(古込氏)といった意見が交わされました。最後に輪島の復興に向けた3氏のメッセージがあり、閉会を迎えました。

右から、千石あや氏、田谷昂大氏、古込和孝氏

トークセッション
右から、千石あや氏、田谷昂大氏、古込和孝氏

バイデン大統領へ贈呈された田谷漆器店のカップ

バイデン大統領へ贈呈された田谷漆器店のカップ
(撮影:日テレ アックスオン)

本シンポジウムは、読売新聞グループ本社と日本政策投資銀行が相互に連携して日本の伝統文化の振興、発展を目指す『Action!伝統文化』に関する連携協定にもとづき、読売新聞社、一般社団法人日本工芸産地協会とともに開催しました。

(写真提供:読売新聞社)

伝統文化

この記事は季刊DBJ No.56に掲載されています

季刊DBJ No.56