DBJ Singapore Limited


DBJ Singapore Limited(以下、DBJ Singapore)は、日本企業の海外展開を金融面から支援するとともに、アジアパシフィック(以下、APAC)地域におけるネットワーク拡大や事業機会をDBJグループ全体として捉える拠点として、2008年より現地法人として運営開始。以降、現地企業向けファイナンスやクロスボーダーM&A、物流・不動産・船舶ファイナンスなど、地域に根ざした金融サービスを通じて日本企業の海外成長戦略や投資を支援してきた。設立当初から現地で強固なネットワークを持つ企業との関係構築を重視し、主にシニアデットの提供に注力してきたが、近年はアジア域内パートナーとの連携強化や、APAC地域におけるプライベートファンド投資支援にも取り組んでいる。2025年、福岡地所株式会社(以下、福岡地所)が主導するコンソーシアムによるシンガポール・ジュロン地区の物流施設取得を支援し、DBJグループとしてシンガポール初の不動産ノンリコース融資を実行した。同融資は、DBJ Singapore、DBJ九州支店、企業金融第3部、アセットファイナンス部の連携により実現した。
シンガポールでは優れた港湾アクセスや安定した制度環境を背景に、ASEANの物流ハブとして物流施設の重要性が高まっている。Eコマースの拡大やサプライチェーン再編の進展を受け、質の高い物流施設への投資需要は引き続き強い一方、政府が土地供給を厳格に管理していることから、良質な物流アセットは希少性が高い。今回の対象物件である「8Jurong Pier Road」は、シンガポール西部のジュロン地区に位置し、港湾や主要産業エリアへのアクセスに優れた立地を有している。複数の国際物流企業が入居し、高稼働かつ安定した賃貸契約などの理由から長期保有に適した収益アセットとして評価されている。
本件は、福岡地所との長年の取引関係を有するDBJ九州支店が、同社から海外投資に関する具体的な相談を受けたことを起点として検討が始まったクロスボーダー案件である。「福岡地所様は、九州地方を中心に総合不動産デベロッパーとしてオフィスや商業施設、住宅などの開発・運営を軸に、近年では海外投資についても検討されていました」と九州支店調査役の下野航太郎は語る。九州支店は、こうした同社の戦略を踏まえ、国内取引の延長線上で海外案件を支援する体制づくりに着手した。
一方、DBJ Singaporeでは、物流分野における知見深化と案件発掘を目的に、企業金融第3部からトレーニーの受け入れを進めていた。この時期、同部の取引先であり、本件の物件売却元でもあった物流不動産およびデータセンターに特化したアジア太平洋の大手アセットマネジメント会社であるESRと継続的かつ緊密に情報交換を実施。ESRはアジア太平洋全域に展開するプラットフォームの一部として、日本およびシンガポールにおける現地専門性を有し、本件物件の売主およびアセットマネージャーを兼務していた。DBJとESRは、シンガポール現地におけるシニアマネジメントとの関係構築を深める中で、将来的な不動産ノンリコース融資の可能性について意見交換を進めていた。
こうした国内RM(Relationship Management)を起点とする顧客接点と、海外拠点における案件発掘・関係構築という連携の結果、ESRからDBJグループに対して融資マンデートが付与され、案件は具体化した。その後は、企業金融第3部が業界知見を主導し、アセットファイナンス部がアセット評価とストラクチャリングを支援。DBJ Singaporeは現地での交渉やデューデリジェンス、ローン実行を担い、グループ横断で密に連携しながら案件を推進した。
本件の推進において鍵となったのは、DBJグループ内の人事ローテーションを通じて形成された、部門横断の迅速な意思決定と強固なチームワークだった。専門性を持つ人材が現地と同じ時間軸で議論に参加できたことで、部門間の調整や意思決定の距離が縮まり、機動的に検討を進めることが可能となった。
「今回の融資は、4部門いずれの立場にとっても初めての取り組みであり、慎重な検討が必要でした。シンガポールの市場環境については、これまでの取引を通じて一定の理解がありましたが、不動産の法制度や許認可、とりわけ国有地における賃借権の継続性や、ノンリコースファイナンスに必要なスキームが成立するかといった点は大きな論点でした」とDBJ Singaporeジョイントゼネラルマネージャーの山田多恵は振り返る。
DBJでは、アセットファイナンス部を中心に北米で実施してきた不動産ノンリコースファイナンスの取り組みを他地域でも広げていく検討が進められていた。「政府関与の強いシンガポール市場において、レンダーとして把握すべき権利関係を包括的に整理することは容易ではなく、法制度やドキュメンテーション、バリュエーションへの対応は大変な難しさがありました」(アセットファイナンス部副調査役 モラン怜)。ドキュメンテーションについては国内チームの専門知見を活用することで、国内外の垣根を越えた連携を実現したほか、ローン実行に必要な格付け対応においても、DBJ Singaporeが収集した現地マーケットスタンダードに関する情報が、社内調整を進める上で大きな支えとなった。こうした専門的な論点についても、国内外の知見を迅速に持ち寄ることで、検討を効率的に進めることができた。
一方、DBJ Singaporeでは、近年の同国における就労ビザ規制の厳格化を背景として日本人駐在員を十分に増員できない状況が続いており、現地拠点のみで高度な専門性を育成することが課題となっていた。これに対し、成長するアジア市場での業務拡大を志向していた企業金融第3部では、その解決策として、短期トレーニング制度を活用して職員を派遣。約3カ月間の派遣を通じて、各分野の専門性をシンガポールに持ち込み、現地メンバーと一体となって案件に取り組む体制づくりを進めた。その結果、案件対応力の向上と人材育成を同時に実現することができた。
こうした体制は、組織としての成果にとどまらず、現地メンバーの成長にもつながった。「私自身、ロジスティクス分野についての知識や経験はほとんどありませんでしたが、トレーニー着任後、多くのお客さまやファンドマネージャーとのミーティングを積極的に設定してくれました。クレジット資料の準備では、シンガポールではあまり扱うことのないアセットファイナンスについて学ぶ機会を得ることができました。短期トレーニング制度は、私のスキルの幅を広げ、成長に大きく寄与したと感じています」とDBJ SingaporeマネージャーのTan Yan Fuは強調する。不動産融資の許認可対応についても、様々なシナリオを想定しながら現地の事情に精通した法律事務所を通じて進め、ESRと緊密に連携した結果、約1週間程度の短期間で許認可を取得することができた。
DBJグループがこの案件で提供できた最大の価値は、顧客、業種、エリア、金融機能といった複数の強みを掛け合わせた「面の力」だといえる。「九州支店のリレーションシップ・マネジメント力や、シンガポール拠点のエリア知見、アセットファイナンス部の専門性、企業金融第3部の業種知見が有機的につながることで、単独では実現し得なかった案件を形にすることができました。この背景には、DBJの人事ローテーションを通じて生まれる、組織を横断した迅速な意思決定と強力なチームワークがあります。これこそが、本件にとどまらず、今後のクロスボーダー案件においてもDBJグループが発揮していく本質的な価値だと考えています」と、当時、企業金融第3部室長(現 経営企画部次長)の小川悠貴は説明する。実際、シンガポール側で課題が生じた際にも九州支店が福岡地所と対話を行い、機動力を発揮することで難易度が高いファイナンスでも様々な困難を乗り越えることができた。
ASEANにおいては、今後も物流やデータセンター、産業インフラなどの不動産分野で高い成長が期待されている。「DBJグループは、日本企業の海外投資を支える資金供給に加え、グローバルパートナーとの協業を的確に支援できる体制を整えることで、国内外の知見を統合したストラクチャリング力の強化を図る方針です。今回の案件で得られた知見を生かし、シンガポールにとどまらず、APAC各国においても、企業と海外パートナーをつなぐ架け橋としてクロスボーダーでの価値創造に貢献したいと考えています」(山田)

(写真 右) DBJ Singapore Limited ジョイントゼネラルマネージャー 山田 多恵
(写真 左) DBJ Singapore Limited マネージャー Tan Yan Fu
この記事は季刊DBJ No.58に掲載されています
季刊DBJ No.58