SCENES OF SOLUTION

鼎談

[DBJのスタートアップサポート]
社会性×経済性を両立する起業家の挑戦をサポート

株式会社Halu 代表取締役 松本 友理 氏
株式会社和える 代表取締役 矢島 里佳 氏
株式会社日本政策投資銀行 常務執行役員 原田 文代

株式会社日本政策投資銀行(以下、DBJ)常務執行役員 原田文代(写真中央)が、スタートアップサポートセンター主催のアワードで受賞実績のある株式会社和える(以下、和える)代表取締役 矢島里佳氏(写真右)と、株式会社Halu 代表取締役 松本友理氏(写真左)を迎え、起業に至った経緯や事業にかける想いを聞いた。

東日本大震災をきっかけに
ビジネスプランコンペティションを創設

原田 DBJは、新たな視点から生まれるビジネスが社会や経済の変革を牽引すると考え、スタートアップサポートセンター(旧 女性起業サポートセンター)を運営しています。代表的な取り組みの一つが、アワードの企画・開催です。アワードを始めたきっかけは、2011年の東日本大震災でした。震災後、地域を元気にしようと多くの方が様々な活動に取り組む中で、特に女性の力の大きさを実感しました。当時、DBJが女性の起業を支援することは新たな挑戦であり、私たち自身も手探りで「女性新ビジネスプランコンペティション」を立ち上げました。女性起業家ならではの課題や悩みに対し、金融機関としてのネットワークやノウハウを活かして支援したいと考えたのです。約10年にわたり「女性新ビジネスプランコンペティション」を開催しましたが、その間全国で多くの女性起業家が誕生し、私たちもその流れをつくる一助になれたと感じています。ジェンダーへの意識が社会に浸透してきたことを受け、2024年からは性別を問わず、社会を変革するスタートアップを広く支援する「DBJスタートアップアクセラレーションアワード」へリニューアルしました。2015年には矢島さんが大賞を受賞され、リニューアル後の初回アワードでは松本さんが特別賞を受賞されました。まずは、起業までの経緯と現在どのような事業をされているのか教えてください。

矢島 私は19歳の頃から、全国の職人さんのもとを訪れる中で伝統工芸や日本文化の奥深さに魅了されました。しかし同時に、市場縮小によりその技術が失われつつある現状や、そもそも多くの人が日本の伝統に触れる機会がなく、存在を知らないという現状に気がつきました。そこで大学4年生のときに「和える」を創業し、最初の事業として、幼少期から日本の伝統に触れられる文化を生み出すべく、"0歳からの伝統ブランドaeru"をスタートしました。社名の和えるは、伝統や先人の智慧と今を生きる私たちの感性を"混ぜる"のではなく"和える(あえる)"ことで、よりご機嫌な世界を実現したいという想いが込められています。2026年3月に創業15周年を迎える現在は、「伝統×◯◯」を軸に、中小企業の魅力を引き出す伴走型リブランディング事業のほか、空間プロデュース、教育・研修事業など多様なビジネスモデルで伝統をつなぐ事業を展開しています。

松本 私は「インクルーシブデザインで多様性を価値に変え、分断のない世界をつくる。」をビジョンに掲げ、障がいの有無によらず、すべての子どもとその家族が共に使える製品を開発しています。代表的な商品が、座位の不安定な障がい児や小さなお子様も安定して座れる「IKOU(イコウ)ポータブルチェア」です。障がい児のいる家族は、外出時に必要となる設備や条件が多く、"行きたい場所"より"行ける場所"を優先せざるを得ないことが多いです。さらに、できないことが増えると、やりたいことがあっても諦めることが当たり前になってしまう。その状況を変えたくて、「行きたい」と思えるきっかけになるプロダクトづくりを目指し、「IKOU」ブランドの商品開発に取り組んでいます。その実践知をもとに、多様な視点を取り入れて新たな商品や事業の創出を目指す企業向けのコンサルティングや研修事業も行っています。

原田 何か課題を感じても、自ら会社を立ち上げるという選択をする人は多くないでしょう。なぜ起業という道を選ばれたのでしょうか。

矢島 大学時代は就職を考えていたのですが、「日本の伝統を次世代につなぐ」というミッションに取り組んでいる企業が見つかりませんでした。しかし、就職先がないからといって、やりたいことを諦める人生はつまらないなと。情熱を注ぎたいことが見つかったのなら、それを実現できるのは自分しかいない。他の道を選ぶ勇気がなかったという感覚です。

松本 私の場合は、新卒から10年間トヨタ自動車株式会社で会社員をしており、在籍中は、起業はもちろん転職すら考えたことがありませんでした。しかし2016年に生まれた長男に脳性まひによる運動機能障がいがあると判明し、生活が一変。障がい児は市販のベビーカーやチェアを使えませんし、設備や環境を気にして気軽に外出できません。当事者になって初めて、世の中の多くの商品は健常者向けに設計されていると知ったのです。同時に、私自身の中にも無意識に、障がいのある子どもや家族を、健常者とは違う世界の存在と見ていたことに気づかされました。トヨタ自動車では商品企画に携わっていましたが、もしかしたら自分も誰かを無意識に取り残していたのかもしれない──。障がい児家族の気持ちがわかり、かつ自分にはものづくりの経験もある。ならば、この状況を変えるのが自分の使命だと、一歩を踏み出しました。

インクルーシブデザインで
多様性を価値に変え、
分断のない世界をつくる

株式会社Halu
代表取締役
松本 友理 氏

二人が大切にしている想い
多様な働き方を実現するために

原田 起業に至った背景や事業内容は異なりますが、社会課題に対し、ものづくりでアプローチしている点は共通していますね。お二人はもともと面識がおありだとか。

松本 はい。私が事業の進め方について悩んでいたときに、共通の知人の紹介で会いに行きました。矢島さんは「先人の智慧をつなぐ」という揺るぎない想いを持ちながらも、その実現のための手段やアプローチは時代の変化に合わせて柔軟に変えていらっしゃいますよね。ぶれない軸があるからこそ、どんな状況にも対応できる強さとしなやかさを兼ね備えているのだと、改めて感じます。事業領域は異なりますが、実現したい社会像や大切にしている想いには共通点が多いと感じています。

矢島 初めてお会いしたときから近しいタイプの方だと感じました。起業家というと、24時間休みなく働き続けるイメージを持たれがちですが、人間として豊かに生きることを大切にしているので、経済活動に偏った猛烈な働き方は理想としていません。結果として、当社では新型コロナウイルス禍前から、リモートや時短勤務といった柔軟な働き方を取り入れています。

松本 働き方については、まさに当社も同様です。私は「息子を幸せにしたい」という想いからスタートしているので、家族を犠牲にしては本末転倒との思いが常にありますね。

矢島 創業当初から多様な働き方を大切にしていたところ、近年では、利益追求と社会貢献の両立を目指す"ゼブラ企業"やウェルビーイング経営の文脈で講演のお声掛けをいただく機会が増えました。私は学生起業だったため自分の会社以外で働いた経験がないのですが、特定の労働観や働き方にとらわれることなく、自分たちの価値観を大切にした組織づくりができたことがかえって良かったのかもしれません。

松本 当社に参画してくれるメンバーを探していたとき、もともとバリバリ働いていたけれども、子どもの障がいをきっかけに職を離れなければならなかった方など、様々な方に出会いました。これからの日本では、画一的な働き方にとらわれず、多様な働き方を認め合い、共有していくことが、経済的なメリットにもつながるのではないでしょうか。コロナ禍も、そうした柔軟な働き方を後押しする追い風になったと感じています。

矢島 働き方も含め、僭越ながら「これからの最先端の起業家像でありたい」と思っています。起業を目指す方には、「肩ひじ張らなくても、"生きる"と"働く"を大切にできる」ことを伝えたいです。

矢島 里佳 氏

ビジネスという手法を用いて、
文化と経済を両輪で育み、
日本の伝統を次世代につなぐ

株式会社和える
代表取締役
矢島 里佳 氏

社会的なインパクトも評価
奨励金のほか、マッチングや伴走サービスも

原田 DBJでは、アワードの受賞者の方に事業奨励金を提供しています。さらに最優秀賞受賞者には、事後支援のための伴走サービスを1年間受ける権利を得ていただきます。また、ファイナリスト全員に対して、ビジネスマッチングで協働先・提携先を紹介したりPRの機会を提供したりと、スタートアップの成長をサポートしています。松本さんがDBJのアワードに応募した経緯をお聞かせください。

松本 DBJのアワードは、過去の受賞者の顔ぶれを拝見すると、単なる経済的価値だけでなく、新しい価値観や将来的に社会に与えるインパクトを重視していることが伝わってきました。こうした価値観を大切にし、さらに伸ばしていこうとする姿勢に共感しています。また、インクルーシブデザインの発想で社会を見つめ直すと、これまで見過ごされてきたマイノリティの課題の中に、イノベーションの種が多く存在すると気づいたのですが、その視点の社会実装には、様々な企業との連携が必要と感じていました。そうしたイノベーションの種を、多くの企業と共創しながら、より大きなインパクトへと育てていきたい──その想いが強くなったタイミングで、今回のアワードへの応募を決めました。私たちの取り組みを特別賞として評価いただいたことは、事業成長に向けた大きな一歩になると考えています。

原田 アワードで経済性の高い事業を選び、すぐに投融資するという選択肢もありますが、私たちは、社会に新たなインパクトをもたらす事業を選び、積極的にサポートしていきたいと考えています。アワードが、事業をさらに大きくしていこうという意気込みのきっかけになったのであれば、主催者としてこれ以上ないほど光栄ですし、とても嬉しく思います。スタートアップの経営者の皆さんは、前向きなエネルギーに満ちていて、私自身も毎回大きな刺激をいただいています。受賞者の方々とお会いするたびに、まるで新しいエネルギーが生まれるような、そんな力強さを感じています。

松本 先日、DBJ主催の取引先会に参加させていただき、様々な企業の皆様にご挨拶できました。「DBJが応援するスタートアップ」として、将来的に社会的・経済的インパクトを生み出していくのだろうという信頼を持ってもらいやすいと感じました。

原田 DBJグループのネットワークを活用したマッチングは、起業家の皆さんに大きく貢献できる部分かもしれません。矢島さんとは、山口県や愛媛県など地方をたくさん回りましたね。

矢島 起業家としてイベントに登壇したり、地域の職人さんを開拓したりと、様々な場面でご一緒させていただきました。企業や自治体の皆様と私たちをつなぐ架け橋になってくださることは、本当にありがたいです。受賞後の変化としては、「DBJのビジネスプランコンペティションで受賞した会社」という肩書きを得たことで、ビジネス社会からの見られ方が変わったと実感しています。賞金以上にビジネス領域での信用が高まったことがなによりありがたいことでした。

松本 例えば、矢島さんであれば地域に根づく伝統や価値観、私の場合は障がいなどマイノリティの生活に根差した工夫やインサイトが、事業の核になっています。こうした理念や想いは、私たち自身だけではなかなか経済的な価値として広く伝えきれない部分もありますが、DBJさんが応援してくださることで、多くの企業にも「経済的な価値につながる事業なのだ」と認識してもらいやすくなるのではないかと思います。私たちが伝えきれない部分を後押ししていただけることは、本当にありがたいです。人口が減少する中で、マイノリティを消費者や働き手として捉えることは、企業にとって未来への戦略的投資であるという意識を広めていきたい。ぜひDBJさんと一緒に推し進めていけたらと思います。

原田 文代

起業家の皆様の挑戦を
サポートすることで、
社会全体に新しい価値や活力を

株式会社日本政策投資銀行
常務執行役員
原田 文代

社会課題の解決を目指すからこそ
事業継続のために経済性も意識する

原田 お二人は、社会課題の解決を目指されていますが、一方で、事業を継続するにはビジネスとして売上を上げることも重要です。社会性と経済性のバランスについて、どのようにお考えですか?

松本 ビジネスとして継続していくために、経済性は強く意識しています。「IKOUポータブルチェア」では障がい児家族の課題解決にとどまらず、「障がいのある子どもの困り事を解決した結果、すべての人にとって使いやすい椅子が生まれた」という発想で、幅広い市場を見据えて開発しました。障がい児向け商品は、福祉関連の事業として公的な補助金を利用するのが一般的です。しかし、当社では金型による量産で製造コストを抑え、ECサイトを通じて誰でも購入できる仕組みを整えています。また、個人のお客様だけでなく企業にも働きかけ、スポーツ施設や飲食店などの商業施設に「あらゆる子どもを歓迎するキッズチェア」として導入いただいています。DBJのアワードでも、補助金に頼らず持続可能なビジネスモデルにチャレンジしている点を高く評価いただき嬉しく思っています。

矢島 私は創業以来、「ビジネスという手法を用いて、文化と経済を両輪で育む」ことを理念に掲げています。文化を育んで広げながら稼ぐというのは、収益のみを追い求めるより難しいです。経済は手段であることを忘れずに、経済の奴隷にならないことが重要だと思います。この考え方を持ち続けている企業には、その想いに共感する人々が集まるからこそ、100年、200年、そして1000年先も続いていくのではないでしょうか。創業から10年を超えて活躍している起業家の知人たちは、どんな困難に直面しても、自分の実現したいビジョンや想いをぶれることなく持ち続けている方々です。高いレジリエンスを発揮し、あの手この手で課題を乗り越えながら、純粋な気持ちで挑戦を続けている。そうした強い想いを持って価値観を広めようと努める会社こそが、長く生き残り続けるのだと改めて感じています。
本日は、1926年創業の甘納豆専門店「斗六屋」さんのお店「SHUKA 京都本店」をお借りしていますが、京都は長く続ける智慧にあふれた地域だと思います。後世に残していくことを前提に経営を行うと、それだけで日々の経営判断のあり方が変わってくるでしょう。私が普段から接している職人さんたちも、「今自分が仕事をできるのは、100年前にこの木を植えてくれた人がいるからだ」と当たり前におっしゃいます。スタートアップでありながらも、昔ながらのファミリービジネスや老舗企業の良いところを"和える"ことで、新たな経営スタイルをこれからも切り拓いていきたいです。

原田 スタートアップには、これからの日本、そして世界を変える大きなパワーがあると感じています。新しいアイディアや文化は、最初は小さなきっかけから始まっても、やがて大きく花開くものです。DBJとしては、これまで日本のインフラや産業を支えることを大切な使命としてきましたが、最近ではスタートアップにもより一層注目し、普段出会うことがない人や企業をつなげ、新たな価値が生まれる場を提供していきたいと考えています。女性起業家支援からスタートした私たちの取り組みも、今では性別を問わず多様な起業家を応援する取り組みへと進化しました。引き続き、起業家の皆様の挑戦をサポートすることで、社会全体に新しい価値や活力を生み出してまいります。

(©株式会社ナゴヤドーム)

株式会社 Halu 商品

バンテリンドーム ナゴヤでの様子。「IKOUポータブルチェア」はスタジアムなどの大人用の椅子の上にも簡単に設置可能で、小さな子連れの家族も一緒にスポーツ観戦を楽しめる。

株式会社 和える
"0歳からの伝統ブランド aeru"商品

aeru「徳島県から 本藍染の 出産祝いセット」は、最初の商品。日本の"あい"でお出迎えをしたいという想いを込めて始まった。キッズデザイン賞も受賞。

場所提供:
SHUKA 京都本店
〒604-8856 京都市中京区壬生西大竹町3-1(斗六屋西隣)

1926年に京都で創業した甘納豆専門店「斗六屋」は、現代表の曽祖母が始めた老舗企業。「SHUKA」は、斗六屋の伝統を受け継ぎながら、新たなお菓子づくりへの挑戦として、現代表が2022年10月に立ち上げたブランド。「自然の恵みに手を添える」というコンセプトのもと、甘納豆づくりで培われた古来の食品保存技術・砂糖漬けを活かした甘納豆や、種だけで作る新たな植物性ジェラートなど、古くて新しい”種”の菓子を創作している。

この記事は季刊DBJ No.58に掲載されています

季刊DBJ No.58