SCENES OF SOLUTION

対談

[DBJのスタートアップサポート]
働く女性を支える服から伝統を未来へつなぐ挑戦

kay me 株式会社
代表兼リードデザイナー 毛見 純子 氏

株式会社日本政策投資銀行
南九州支店 業務課 副調査役 堀田 麻依子

働く女性の日常を支える服づくりから「kay me(ケイミー)」の事業は始まった。2016年の「第5回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション」で女性起業大賞を受賞した代表の毛見純子氏(写真左)は、「ラクちん」「時短」「映える」の3つの特徴を持った服を通じて、働く女性の挑戦を応援してきた。その発想は、日本の伝統工芸を事業として次世代につなぐ挑戦へと向かう。京友禅、琉球紅型に続く第3弾となる大島紬プロジェクトは、社会課題に向き合う新たな実装のかたちを示している。

日常をもっと自由に
働く女性の未来を美しく

堀田 kay meさんは創業時から一貫して「働く女性の日常」に向き合ってこられた印象があります。どのような課題意識から事業をスタートされたのでしょうか。

毛見 忙しく働く女性の日常において、服装が思いのほか大きな制約になっていると考えたのが出発点です。対外的な場やビジネスシーンで求められる「きちんとして見える服」は、動きにくかったり、ケアに手間がかかったりと負担が多い。そうした小さなストレスが積み重なることで、本来使えるはずの時間やエネルギーが奪われてしまうと感じたんです。洗えてシワにならず、長時間着ても疲れにくい。そのうえで体型を美しく見せ、どんな場面にも対応できる設計を重視しています。
私たちが大切にしているのは、服というモノを売ることではなく、その先にあるお客様の未来を良くすることです。その延長線上で考えるようになったのが、服をつくる背景そのものでした。幼い頃、呉服屋を営む祖父母の仕入れに同行し、活気のある国内の繊維産業を目にして育ちました。しかし大人になって関西の問屋街を訪れた際、かつての賑わいが失われている現実に強い危機感を覚えたのです。2011年には国内生産衣料の数量ベース比率は3%まで低下し、現在はさらに減っています。衣食住の基盤となる衣料を国内で調達できなくなる状況は、有事の際のリスクでもあると感じました。一方で、日本のものづくりは品質も技術も世界的に高い水準にあります。だからこそ、事業として成立させながら技術を次世代につないでいく余地があるのではないかと考えるようになりました。

堀田 そこから伝統工芸の分野へと関心が向かったのですね。

毛見 はい。京都の友禅工場を訪れ、着物需要の減少で技術者の方々が厳しい状況に置かれていることを知ったのが一つの転機でした。ちょうど当社で洗えるシルクジャージー素材の開発を進めており、京都の工場が持つ技術を生かせる可能性が見えたのです。伝統技術は需要が減っているものの、技術レベルは非常に高い。素材や染色、縫製といった各地の技を現代の生活に合うかたちで残していきたい。その想いが、伝統工芸に本格的に取り組む理由になっています。
ただ、当社1社だけで伝統工芸を事業として成長させることには限界もありました。多くの時間と労力をかけながら模索する中、日本の伝統工芸を国内外にどう広げていくかという課題に直面していたのです。そんなとき、以前から折に触れて相談に乗っていただいていたDBJの原田文代常務から、奄美大島の「大島紬」の話を伺いました。奄美大島や大島紬が歩んできた道は決して平坦なものではありません。それでも人々は強く明るく技術を絶やさずつくり続けてきた。その強さが働く女性たちの勇気になると思い、今回のコラボレーションを決めました。

毛見 純子 氏

服というモノを売るのではなく
その先にあるお客様の未来を良くしたい

kay me 株式会社
代表兼リードデザイナー
毛見 純子 氏

地域の魅力を世界へ届けて
新たな循環を事業として描く

堀田 大島紬は世界三大織物の一つとされるほど優れた技術力と文化的価値を持つ一方で、その価値が限られた人々の間でしか知られていない現状もあります。

毛見 こうした伝統工芸を特別な場だけのものにとどめず、どう日常へ取り入れるかを私たちは常に考えています。今回のプロジェクトでは、大島紬を使ったアイテムを2つの軸で製作しました。一つは、本物の反物を活かしたものです。大島紬は糸を泥で染める「泥染め」という伝統的な製法でつくられており、染料が定着する過程で糸が硬化します。そのため水洗いや機械的な力に弱く、洗うと色落ちや縮み、シワが生じやすい性質があります。私たちのブランドのコアバリューは「時短かつきちんとした服」を提供することです。その観点から、日常着のメイン素材として使うのは難しい。そこで本物の反物は、ベルトやタイなど、取り外し可能なパーツに使用しました。
もう一つは、大島紬の意匠や柄を現代的に表現する方法です。竜郷柄(たつごうがら)や秋名(あきな)バラ柄といった伝統的な意匠には、それ自体に大きな価値があります。創業時にアパレル市場を調査する中で、世界的に成長しているブランドの多くが完成度の高いモノグラムを持つことに気づきました。例えばルイ・ヴィトンのダミエ柄(市松模様)のモノグラムは、日本の家紋がルーツともいわれています。モノグラムはロゴ単体ではなく、服やバッグに自然に溶け込む文様であり、ブランドの成長にも影響を与えます。
こうした背景から、私たちは大島紬の柄が持つ力を最大限生かしたいと考え、ワンピースなどの衣服にプリントで再現しました。本物の大島紬とプリント表現を組み合わせることで、伝統技術への敬意と日常で着やすい利便性の両立を目指しています。本プロジェクトの立ち上げから同行してもらった堀田さんには、分刻みでスケジュールを管理していただくなど、様々なサポートをいただきましたね。

堀田 既存の南九州支店のネットワークを活用し、kay meさんと大島紬の織元、市長や町長など関係者を結びつける橋渡し役を務めました。大島紬は後継者不足や職人の高齢化が進んでおり、持続的な継承の方策が問われています。その中で、海外拠点を持ち、現役世代の女性をターゲットに展開するkay meさんの参加は、関係者の皆様にとって非常に心強いものとして受け止められました。地域経済や地域産業を支えていくことは、金融機関としての私たちの重要な使命です。今回の取り組みは、伝統技術を次世代に残すと同時に、地域産業の振興にもつながると確信しています。

毛見 機能性素材と大島紬の意匠を融合した「語れるワンピース」は、奄美の自然や伝統工芸の精密さを、身に着けている人自身が伝えていく存在になります。ビジネスや会食の場でも自然に会話のきっかけが生まれ、着る人の負担を増やすことなく対話を後押しすることも期待できます。奄美大島にお客様をご案内して実際に文化に触れていただくツアー企画も検討中です。全国それぞれの地域の魅力を世界に届け、その循環を事業としてつくっていく。それが私たちの挑戦です。

堀田 麻依子

地域経済や地域産業を支えていくことは
金融機関としての私たちの重要な使命です

株式会社日本政策投資銀行
南九州支店 業務課 副調査役
堀田 麻依子

(写真左)奄美大島に息づく龍郷柄を、機能性素材で現代的に表現。伝統意匠を日常に溶け込ませた一着に。
(写真上段左)江戸末期に薩摩藩へ献上された由緒ある文様、龍郷柄のベルト
(写真上段右)希少な白大島紬で仕立てたサステナブルなボウタイ。細やかな紋様が胸元に上品な華やぎを。
(写真下段)1反に1年かけ、37工程の手仕事から生まれる本場大島紬を名刺入れでも展開。希少な伝統柄と職人技を、ビジネスシーンの日常へ。
(写真提供:kay me株式会社)

この記事は季刊DBJ No.58に掲載されています

季刊DBJ No.58