Vol.25
能登半島地震と地域のレジリエンス強化に向けて
[執筆者]
株式会社日本経済研究所
公共デザイン本部 地域振興部 研究主幹
生田美樹
1.能登半島地震の概要
2024年1月1日16時10分に、能登半島北部を震源とする大地震が発生した。能登半島では老朽化した家屋の倒壊、津波、火災、断水等が発生し、復旧に時間を要している。株式会社日本政策投資銀行北陸支店の「令和6年能登半島地震からの創造的復興に向けて(2024年3月)」によると、今回の地震の特徴は①日本海に突き出た半島が被災し、移動・輸送経路が確保できないことによる復旧の長期化、②高齢化が進む住宅の耐震化率が低い地域で生じたことによる被害の拡大、③人的・物的な被害率が高く、地域社会へ甚大な影響がある点である。
過去の震災の被害総額をみると、内閣府の試算では東日本大震災の被害総額が16兆円~25兆円、熊本地震が2.4兆円~4.6兆円、能登半島地震が1.1兆円~2.6兆円と推計されている。東日本大震災や熊本地震よりは小さい額だが、輪島市中心部の観光名所「朝市通り」では大規模な火災が発生し、約4万9,000㎡が焼失した。
2.僻地での震災に対する対応策
能登半島は石川県の先端部分にあり、道路・水道が寸断され、鉄道も震災直後は新幹線、JR等も運休し※1、沿岸部では地形隆起や津波により港湾が使用不可となり、災害救助に向かうには極めて困難な地域にあるといえる。一方、輪島市の要請によりドローンが被災地状況の確認や物資輸送の支援活動を実施し、災害時に有効であることが確認された。災害時のドローンの活用には、行政からの要請が必要であるため、予め自治体とドローン関連事業者で協定を締結し、災害マニュアルにもドローンの活用方法について記載する点がポイントである。今後は僻地での災害時には官民連携によるドローンのさらなる活用が期待される。
復興に向けてインフラ整備に加え、地域産業である伝統工芸や観光産業への支援も必要だ。東日本大震災では震災から10年以上経過しているが、三陸鉄道※2は震災学習列車、南三陸ホテル観洋では語り部バスを現在も継続して運行している。このような取り組みは域外からの誘客につながり、地域での宿泊や消費につながる上に、次世代の防災意識を啓発し、災害準備につながるカギとなろう※3。のと鉄道には、能登半島地震を風化させないよう震災と観光をリンクさせた持続可能な取り組みが期待される。


令和6年能登半島地震におけるドローンを活用した支援物資輸送 (写真提供:石川県)
3.地域のレジリエンス強化に向けて
災害対応は行政の経験とノウハウ、予算が必要だ。経験や知識、ノウハウは組織ではなく、人間に蓄積される。僻地での災害対応は困難を極め、どの地域でも災害が発生する可能性があるため、過去の経験を活かすためには、災害対応の経験があるOBの活用を含めて長期的な視点で人員を配置し、ノウハウを行政に蓄積していくことが重要である。
東日本大震災では、JR貨物が新潟経由でガソリン等の物資を被災地に輸送し、ライフラインを確保した。東北地方の沿岸部を運行する三陸鉄道は国、自治体、地域住民が一体となって復旧させ、今日も地域の復興のシンボルとなっている。地域のレジリエンス強化の観点から専門人材の育成や災害時にも活用できる鉄道の重要性を日本人は再評価すべきであろう。
※1 能登半島を運行している「のと鉄道」は2001年に七尾線(穴水-輪島)が、続いて2005年に能登線(穴水-蛸島)が廃線となり、現在は七尾-穴水間で運行している。のと鉄道は能登半島地震から約3ヵ月後の4月6日に全線運行再開した。
※2 三陸鉄道は1984年の運行開始から40周年をむかえた。
※3 「石川県創造的復興プラン(仮称)(2024年6月)石川県」には、能登地域への教育旅行の誘致が明記されている。
この記事は季刊DBJ No.55に掲載されています
季刊DBJ No.55