DBJ Americas Inc.

DBJ Americas Inc.(以下、DBJ Americas)は、DBJグループの米州現地法人であり、プロジェクト・ファイナンスを通じた投融資などにつながる日系・非日系の現地企業やファンドなどとのリレーションシップ・マネジメントを担う。本店各部と連携しながら、案件の入口段階での目利きやデューデリジェンス、モニタリングのサポートなどを行う。対象業種はエネルギー、運輸交通インフラ、不動産が中心で、それぞれ基礎分野と重点分野、新分野を意識して、注力するテーマを設定する。DBJによる米国初のクライメートテック・スタートアップへの投資はグループの連携で実現した。
DBJ Americas Inc.
Head of Corporate &
Structured Finance Group
小田村正彦
Infinium Holdings, Inc.
CEO
Robert Schuetzle 氏
DBJ
企業金融第5部 調査役
水ノ江 聡史
DBJの欧米における海外業務は、インフラプロジェクトに対する投融資を中心に拡大してきた経緯がある。例えば、日系エネルギー企業に対する米国のガス火力発電事業への投資支援や日本の投資家に向けた海外投融資機会の創出が挙げられる。後者においては、例えば、地銀と共同でインフラPPPプロジェクトに参画したり、本邦大手公的年金と共同で先進国の電力発送電や鉄道などのインフラに投資するグローバル・アライアンスへの参画を実現したりなど、こうした先進事例で得たノウハウを日本に還元する点にも意義がある。「経済性との両立を図るために、海外展開にあたっては、国内で実績や経験のある分野を対象に、当行出資先の信頼できる現地のファンドなどが投資する案件に対して投融資を行いながら、知見・経験を積み上げていくアプローチをとってきました」とDBJ Americasの小田村正彦は話す。
「その上で、当行が自信をもって投融資する案件を日本の事業会社や地銀、機関投資家などにつなぎ、これまでの知見・ノウハウを活かして国内の資金と海外の優良な投融資機会の橋渡し役となることで、日本投資家による海外オルタナティブ投資の拡大や日本企業の海外展開に貢献してきたという流れがあります」(小田村)
DBJグループが2050年サステナビリティの実現に向けて掲げているGRIT戦略※1 。DBJ Americasにおいても基礎・重点分野を中心に当該戦略に資する投融資を推し進めている。ただ、新分野として掲げていたスタートアップ投資、特にクライメートテック分野の投資には、いくつかの課題があった。1つ目は世界的な新潮流であるがゆえにDBJとしても国内も含めて実績が限られていたこと。2つ目はこれまで取り組んできたインフラへの投融資と比べてリスクが高い一方で、候補案件は数多あり、玉石混交の中で目利きが必要となること。3つ目は、先端技術への知見が深い日系企業がすでに投資家として市場に存在する中でDBJの強みが発揮しにくいことだ。「海外クライメートテック投資におけるDBJらしい経済価値・社会価値の両立とはどのような形なのか、現場で悩む日々が続きました」(小田村)
こうした課題を乗り越え、DBJが2024年3月に出資参画したのが、米国カリフォルニア州サクラメントに本社を置く合成燃料のスタートアップであるInfinium Holdings, Inc(. 以下、Infinium)だ。Infiniumはe-fuel (ディーゼル、SAF、ナフサ)を開発・製造するスタートアップであり、革新的な触媒技術を有している。この米国初のクライメートテック・スタートアップへの投資は、DBJの企業金融第5部とDBJ Americasとのグループ連携で実現した。
DBJにおいてエネルギーセクター向けの投融資を所管するのは企業金融第5部になる。投融資の多くは国内エネルギー向けだが、近年はクライメートテック・スタートアップへの投資も実施している。特に脱炭素社会における重要なエネルギーとして水素に関連した技術は注目度が高い。「ただし、中長期的なコスト合理化のためには革新的なイノベーションが必要です」と、企業金融第5部の水ノ江聡史は話す。まずは先行する欧米案件に参画し、得られたノウハウなどを日本のインフラ構築に還元していく姿を描く。
水素特化型VC(ベンチャーキャピタル)に対する市場調査の中で、欧州の水素市場の関係者を通じて出会ったのがAP Ventures LLP(以下、AP Ventures)※2 だ。英国のロンドンに拠点を置くAP Venturesは、水素分野に特化したVCで、水素のバリューチェーン全体を投資対象としている。DBJはAP Venturesの過去の運用実績やユニークなポジショニングを評価し、2024年2月に運営するファンドに出資するLP投資家となった。「企業金融第5部においても、この参画を契機にクライメートテックの取り組み範囲を拡大し、現在では複数の海外パートナーVCとの連携体制を構築しています」(水ノ江)。そしてAP Venturesのファンドが投資する先の1社が、Infiniumであった。
そして米国でも、DBJ Americasが日系の顧客企業などとの対話等を通じて、米国初のクライメートテック投資に向けた道筋をつけ始めていた。この分野の投資で先行する企業の中には、有力VCの投資先であることを重要な投資ポリシーとしていたり、本社から実質的な権限委譲を受けて本部方針に左右されすぎずに投資判断できる仕組みを備えていたりする企業などがあった一方で、初期段階を抜けた資金調達ステージでインフラファンドやアジア勢の参画などによって資金量などの観点から日本勢が押され気味となってしまうことへの危機感も耳にした。「水素にフォーカスすることで深堀りして知見を蓄積しつつ、有力ファンドと協働して投資を進めていく企業金融第5部のアプローチは、これまで自身が経験した海外インフラ投融資に通じるものがあり得心できるものでした。また、エナジートランジションの先端技術に詳しい日本の有力企業ですら有力VCの目利きを活かそうとする投資姿勢には日系投資家として学ぶべき慎重さを感じるとともに、本部方針に縛られすぎることなく真に意味ある投資をめざして突き進む先駆者としての気概にも共感しました。一方で、DBJの投資参画により、本邦投資家への呼び水効果も相まって世界的に有望な気候変動技術に対する日本勢のプレゼンスの維持向上に一役買えると考えました。Infiniumは航空業界の高いコミットメントと政策による後押しが見込める有力な投資候補として当初から着目していましたが、投資先の技術・プロジェクトの日本への展開支援可能性も含めて、経済価値と社会価値の両立への道筋が見え始め、DBJ Americasにおいても速やかに投資検討体制を整えることになりました」(小田村)
Infiniumが事業を手掛けるe-fuelは、DBJにおいても将来性を期待するクライメートテック分野だ。e-fuelは再生可能エネルギーと廃棄された二酸化炭素を原料とする新たな合成燃料を指す。既存のトラックや航空機、船舶にそのまま使用でき、化石燃料と比較して二酸化炭素を著しく減少させることが可能だ。そのためe-fuelの1つであるSAFは、航空業界の脱炭素手段として導入が進められている。主要な航空会社が2030年にジェット燃料に対し10%の導入目標を掲げ、2030年以降も規制や政策支援を背景として世界的な市場の拡大が見込まれている。ただ、世界のSAF生産量は2021年でジェット燃料の0.03%に過ぎず、SAFの取引価格は既存ジェット燃料の2~8倍ともされる。
ひと言でSAFといっても原料や製造方法で大きく4つの類型がある。「1」廃食油由来のHEFA-SPK「2」バイオ原料由来のFT合成「3」ATJと呼称されるAlcohol to Jet「4」水素と二酸化炭素を原料とするeSAFーーの4つだ。「1」のHEFA-SPKは現状価格面で優位性があるものの、さらなるコスト削減余地は限定的であるのに加え、GHG削減率や原料調達での制約が大きい。一方でeSAFは技術成熟度は低いものの安定供給やスケールアップの潜在力、そして環境対応の面で市場の拡大が期待される。さらにeSAFの製造方法も、CO2電解と逆水性ガスシフト(RWGS)に大別される。技術開発で先行するRWGSも、投資回収に必要なスケール化が課題だ。Infiniumは、RWGSにおいて世界初の商業スケールのeSAF製造を成功させている。
Infiniumへの個別投資にあたっては企業金融第5部とDBJ Americasがタッグを組んで臨んだ。企業金融第5部ではAP Venturesのファンドの投資先を紹介してもらい、Infiniumと2023年7月より個別面談を始めた。「DBJの投資クライテリアを踏まえInfiniumが最有力投資候補先となり、投資の検討を本格化させました」(水ノ江)
DBJ Americasは、主要な投資家へのリファレンス面談やマネジメントインタビュー、テキサス州の1号プラントの実地調査やプロジェクション作成に携わった。
「1号プラントは安定操業しており、一定の技術確立がなされているといえますが、現在建設中の2号プラントは生産量で10倍のスケールアップとなります。ただ、効率的なeSAF製造を実現する独自の触媒技術やコスト競争力を強みに、プラントに対するオフテイク契約を優良企業から確保している点や、AP Venturesなどの強固なプロジェクト関係者がいる点を踏まえ、Infiniumの出資参画を果たしました」(小田村)
InfiniumのCEOであるRobert Schuetzle氏は、DBJの参画に対して次のようにコメントを寄せる。「今回の資金調達ラウンドは2号プラントの建設資金などを対象としており、当社の成長を支えるエクイティでの拠出には感謝しています。日本を代表する政府系金融機関が投資家として参画することは日本の産業界への呼び水となり、他の日系企業からの出資にもつながりました。今後のプロジェクトにおいても資金調達においてお力添えいただくことを期待しています」
DBJにとって、Infiniumへの参画は大きな意義がある。「十分な経済的リターンが期待できることに加え、AP Venturesとの共同投資1号案件であり、今後に向けた投資実務ノウハウの蓄積や投資人材の育成につながりました。米国のクライメートテックの領域でDBJのプレゼンスが向上したほか、水素やSAF分野における知的・人的資本の一層の蓄積に資すると考えています」(水ノ江)「本店各部を含むDBJグループ全体と適切な連携を図りつつ、DBJ Americasの職員が各々に培ってきた経験・知見に現地でのコミュニケーションを掛け合わせることで、新たな付加価値やストーリーを創出し、時代の最先端にあり潮流の移ろい激しい米国市場において、今後もDBJらしく経済価値・社会価値の両立に挑んでいきたいと考えています」(小田村)
日本においてもSAFの国内市場の早期立ち上げや中長期的でのeSAFの量産化につながる可能性がある。日系投資家がeSAFへの投資に参画することで市場での存在感の向上も期待される。
※1 持続可能な社会の実現に向けてGreen(カーボンニュートラルに向けた取り組み)、Resilience & Recovery(しなやかで強靱な産業や社会を支援する取り組み)、Innovation、Transition/Transformationの観点から投融資を行う。
※2 季刊DBJ No.56にて、DBJ Europe LimitedとAP Venturesとのリレーションシップを紹介している。
(写真提供:Infinium Holdings, Inc.)
この記事は季刊DBJ No.57に掲載されています
季刊DBJ No.57