モデルケース紹介

水インフラの進化
分散型水循環システムで目指す
持続可能な水利用の実現
WOTA株式会社
執行役員 営業・渉外管掌 越智 浩樹 氏
日本の上下水道インフラが人口減少や施設・配管の老朽化を背景に構造的な課題に直面する中、テクノロジーによる「水問題の構造的解決」を掲げるスタートアップが注目を集めている。センサーで水質等を監視し、アルゴリズムによって機器の運転を自動制御する独自の水処理自律制御技術により、使った水をその場で再生して循環利用するシステムを開発するWOTA株式会社(以下、WOTA)だ。2024年の能登半島地震では、同社のプロダクトが避難所や医療・福祉施設の衛生環境を支える「インフラ」として機能し、その有効性を証明した。2025年12月に発表された「自治体間広域互助プラットフォーム(JWAD)」の始動を機に、さらなる水利用のレジリエンスへの貢献を見据えるWOTAの取り組みについて、執行役員 営業・渉外管掌を務める越智浩樹氏に聞いた。
「何のために」を問い直す
WOTAが向き合う水問題の根源
まずは、WOTAという組織がどのような想いで事業に向き合っているのか、その原点をお聞かせください。
私たちが何より大切にしているのは、技術そのものよりも「何のためにそれを行うのか」という目的です。当社のミッションは「世界の水問題を構造的に解決する」こと。水問題と一口に言っても、断水や水不足、水質汚染といった顕在化する課題に加え、日本で深刻化している水道インフラの維持・更新を困難にする財政面の構造的課題など、多岐にわたります。
水問題の本質には、グローバル規模の構造的な歪みがあります。人口増加や産業活動の拡大により水需要は中長期的に増え続ける一方で、地球上の淡水資源の総量そのものは増えません。その結果、「水の需給ギャップ」が世界的に拡大し続けています。一方、日本ではこれとは異なる形の構造課題が顕在化しています。人口減少が本格化し始めた2020年時点ですでに、上下水道事業は、料金収入の減少と老朽インフラの更新費用の増大に挟まれ、恒常的な赤字構造に陥りつつあります。これは単なる経営努力の問題ではなく、制度・インフラ設計そのものが人口減少社会に適合していないことを意味しています。
日本の社会をこれまで支えてきたのは、大規模浄水場と広域配管網を前提とする「集約型インフラモデル」でした。しかし、人口密度の低下や地域の縮小が進む中で、このモデルは固定費負担が相対的に重くなり、持続可能性を急速に失いつつあります。今後は、従来型の延長線上ではなく、構造そのものを転換する発想が不可欠になっています。そこで私たちが提示しているのが、水の利用を「分散化」するという選択肢です。使った水をその場で再生し、繰り返し使うことができる「小規模分散型水循環システム」を実現することで、人口密度が低い地域でも、あるいは災害で既存の上下水道インフラが断絶された状況においても、必要な水を確保できる社会を目指しています。
この発想は、水処理技術だけでは成り立ちません。当社には、水業界の出身者に加え、製造業における量産・品質管理のノウハウを持つ技術者や、官公庁、金融など、さまざまな分野で経験を積んだメンバーが集まっています。異なる視点と専門性を掛け合わせることで、水問題を構造から捉え直し、新しい水インフラのかたちに挑戦し続けています。
そうした分散化を実現するために、これまでどのようなプロダクトを展開されてきたのでしょうか。
私たちのソリューションの核は、独自の「水処理自律制御技術」です。通常、水処理は水源や水質に合わせた「個別最適」が必要なため、大型浄水場などの施設で専門家が管理するのが一般的です。しかし、私たちはセンサーで水質や水圧を常時監視し、アルゴリズムによって機器の運転を自動制御する仕組みをつくり上げました。いわば製造業的なアプローチで水処理を「標準化」し、量産可能なプロダクトへと昇華させてきたのです。
まず取り組んだのは、災害時の避難所などで活用するプロダクトの開発です。ポータブル水再生システム「WOTA BOX」がその中核となります。上下水道に依存せず、100リットルの水があれば、排水の最大98%をその場で再生し、約100人分のシャワー利用が可能です。大人2人で約15分あれば設営可能です。また、水循環型手洗いスタンド「WOSH」も展開しています。わずか20リットルの水で約500回の手洗いが可能で、スマートフォンの除菌機能も備えています。上下水道がない場所でも衛生環境を確保できるため、災害時はもちろん、百貨店などの日常空間でも「フェーズフリー」に活用されています。
そして現在、この分散化の選択肢を日常のインフラへと広げるべく開発を進めているのが、家庭用水循環システム「WOTA Unit」です。このシステムは飲用水系統、生活用水系統、トイレ用水系統の3系統の構造になっています。生活用水については、日本の水道法に基づく水道水質基準を満たすレベルまで浄化して再利用しており、日常生活に安心して使える水質を確保しています。トイレ用水についても、国の再利用水に関する基準に準拠した水を供給しています。
また、すべてのシステムはインターネットに接続されており、アプリ上で水量や水質、利用状況をリアルタイムで把握することができます。自治体が導入した場合には、地域全体での水の確保状況や利用状況を一元的に管理することも可能です。

水循環型シャワー「WOTA BOX」(写真左)と水循環型手洗いスタンド「WOSH」(写真右)
能登半島地震での経験と
露呈した「ラストワンマイル」の課題
2024年能登半島地震では、WOTAの製品が避難所支援で大きな役割を果たしました。現場での活動を通じて、どのような手応えと課題を感じましたか。
能登半島地震では、私たちのプロダクトが石川県6市町(珠洲市、輪島市、能登町、穴水町、志賀町、七尾市)における長期断水避難所の約89%をカバーしました。断水が続く中で、シャワーを浴びられる、手が洗えるということが、避難されている方々の尊厳と衛生環境をいかに支えるかを痛感しました。現在の日本では、飲用水については、非常時に迅速に必要な地域に届ける体制が進んでいます。一方で、入浴や洗濯・トイレなどに必要な「生活用水」の重要性については、十分に認識されてこなかった側面もあります。しかし、避難生活や断水が長期にわたった2024年能登半島地震は、生活用水が人の健康や尊厳を支えるうえで不可欠であることを、多くの人が改めて認識する契機となりました。
こうした認識の広がりを背景に、国連機関や国際NGOなどが参照する「スフィア基準」に基づく考え方が、日本の避難所運営にも反映されつつあります。2024年以降、日本政府の指針においては、避難所における入浴環境の確保や生活衛生の改善が、より明確に位置付けられるようになっています。飲用水に比べてはるかに多くの量が必要となる生活用水を供給し続けるには、造水技術・配水設備・水利用設備・配水処理設備のすべての条件が満たされなければならないということを確信しました。
実際、能登半島地震への対応を通じて、私たちは災害時における配備の難しさを痛感しました。発災当初、能登半島地域には当社の水循環システムは1台も導入されておらず、また当社としても十分な在庫を保有していない状況でした。そのため、まずは全国で当社システムを保有してくださっている自治体に対し、被災地での活用を目的とした貸与のお願いから始める必要がありました。加えて、各市町との個別交渉を行いながら、どの避難所に何台を配置するかといった配備計画の策定、機材の集約、現地への輸送までを、ほぼすべて当社社員が担う必要がありました。全社を挙げて対応したものの、長期断水下にある避難所の約89%をカバーできた時点では、地震発生からおよそ1カ月が経過していました。このような対応は、能登半島地震の規模だからこそ何とか実現できたものであり、被害規模が何百倍にもなると想定されている首都直下地震や南海トラフ地震のような大規模災害が発生した場合、同じやり方では到底対応しきれません。
その教訓を経て、2025年12月4日に新たな取り組みを発表されました。その内容について詳しく教えてください。
まさに能登での反省を活かし、全国の自治体間で水循環システムなどを融通し合う「自治体間広域互助プラットフォーム構想を掲げ、本プラットフォームの組織・運営を担う事務局として「JWAD(Japan Water Association for Disaster)」を本格始動させました。これは、全国の自治体や官公庁と連携し、被災していない自治体が所有する「WOTA BOX」などの水循環資機材を、迅速に被災地に集約・配送する仕組みです。これまでは「持っている自治体が個別に貸し出す」という点的な支援でしたが、JWADによって、国や都道府県が主導する組織的な「面」の支援へと進化します。すでに全国の半数近い都道府県と締結を完了しており、日本政府や関係省庁とも連携を進めています。ポイントは、平時から取り決めを行い、仕組み化することで、指令系統を明確にしておくことです。これにより、能登半島地震の時に1カ月以上かかっていた被災地への配備を、劇的に短縮することを目指します。
水道の「2040年問題」を見据え
生活用水分散化の実証も推進
日常のインフラとしての分散型水処理システムも、本格的な社会実装を見据えていますね。
冒頭で述べた通り、日本の水問題は災害時だけではありません。現在、日本各地の過疎地域などでは、水道配管の老朽化が進む一方で、人口減少に伴いその更新コストが住民の負担能力を超え、大幅な赤字構造に陥っています。これに対し、各家庭に分散型のシステムを設置することで、既存の巨大なインフラに依存せず水利用を実現できます。
こうした小規模分散型水循環システムを全国へ迅速に広めていくために立ち上げたのが、「Water 2040 Fund」です。これは、人口減少により水道維持が困難になる「2040年問題」を見据え、全国の自治体が直面する上下水道インフラの構造的課題に対応するために設立された「分散型水循環システム導入ファンド」です。分散型水循環システムの導入にあたっては、計画策定や初期投資の平準化、導入後の運用・管理まで、多くの自治体にとって実務的かつ財政的なハードルが存在します。このファンドは、関係金融機関や地域企業と連携し、自治体が分散型水循環システムを実装するための一連の支援プロセスを中長期的に伴走する枠組みとして位置付けられています。自治体向けに募集を開始したところ、当初の目標5000世帯を大幅に上回る、全国の自治体から2万4000世帯超の応募をいただきました。これほどの反響は、地方自治体が抱える水道維持への危機感がいかに切実か、そして新たな解決策への期待の表れだと受け止めています。
足元では、当社と石川県珠洲市共同研究体による、国土交通省の「上下水道一体革新的技術実証事業(AB-Cross)」に採択された実証プロジェクトなども進めており、新しい仕組みの制度化に向けた動きを加速させています。日本で確立したこのモデルを、ゆくゆくは世界中の水不足に悩む地域へと展開することも視野に入れています。
挑戦を支えるパートナーとして、DBJとの関わりをどう感じていますか。
当社は2022年に、シリーズBラウンドの資金調達のリード投資家として、DBJから出資を受けました。これは、大きく2つの面で当社に大きなインパクトを及ぼしています。第一に「信用の担保」です。政府系金融機関であるDBJの出資により、地銀11行を含む多くの金融機関からの出資につながりました。特に自治体の現場では地銀の皆様からの信用は絶大で、事業や実証の推進スピードを大きく加速させる契機となりました。第二に、同じ目線でミッション達成を目指すパートナーの獲得です。当社が開発するプロダクトは、飲用や、肌に直接触れる水を扱うため、安全性が十分に担保されている必要があります。さらに、ハードウェアの開発には、時間も資金もかかります。そんな中で、社会課題の解決を投融資で支える思想を持つDBJは、まさに当社が求めていた長期目線の伴走者そのものでした。現在は社外取締役としても参画いただき、金融と社会性の両面から助言を受けています。
最後に、今後の抱負をお聞かせください。
水問題は、単一の主体や技術だけで解決できるものではなく、社会全体で向き合うべき構造的な課題です。私たちは、技術を起点に、行政や金融機関、地域社会と連携しながら、誰もが安定して水を利用できる仕組みの構築に取り組んでいきます。この取り組みの趣旨に共感し、ともに水インフラのあり方を更新していくパートナーとの連携を、今後も広げていきたいと考えています。

[DBJ担当者の視点]
社会課題への真摯な姿勢と「巻き込む力」への期待
株式会社日本政策投資銀行
イノベーション投資部 調査役
杉本 大斗
当行が国内外の社会課題解決型ベンチャー支援を目的に設立したファンド「DBJスタートアップ・イノベーションファンド」の第1号案件として出資したのが、WOTAです。「水問題の構造的解決」という壮大なビジョンに対し、極めて真摯に向き合われていることが、出資の決め手になりました。元々、水道老朽化や災害時の生活用水不足は、我々が長年注視してきた課題です。WOTAの分散型水循環システムは、その有力なソリューションになり得ます。
何より驚かされるのは、同社の「巻き込む力」です。単に技術を売るのではなく、目的を語ることで、金融機関はもちろんのこと、自治体や大手企業までもが協力したくなる。能登での実績、そしてJWADの構築に見られる行政との強固な連携は、他のスタートアップにはない強みです。今後も中長期的なパートナーとして、日本のレジリエンス向上に向かってともに歩んでいきたいと考えています。

この記事は季刊DBJ No.58に掲載されています
季刊DBJ No.58