DBJキャピタル株式会社

DBJキャピタル株式会社は、株式会社日本政策投資銀行(DBJ)100%出資のベンチャーキャピタルである。「革新的な技術と事業を探求し、世界に大きなインパクトを与えるため、長期的な支援と信用力の提供を通じて、起業家と誠実に向き合い共に挑戦を続ける」ことをミッションとしており、これまで数多くのスタートアップの事業成長を支援してきた。今回投資を実行したのは、シェフや管理栄養士など料理のプロとユーザーを結ぶ「マッチングプラットフォーム」を提供している株式会社シェアダイン。共同代表の井出有希氏に、起業の経緯から現在に至るその歩みを伺った。
[Case Study] 株式会社シェアダイン
株式会社シェアダイン
共同代表
井出有希氏
話は、約8年前に遡る。当時井出氏は、大手コンサルティングファームに勤務、妊娠・出産後に復職した。実感したのは、子育てしながら働くことの大変さだった。特に家庭の食卓が疎かになってしまうことに心が痛んだ。子どもが偏食だったことも井出氏を悩ませた。「何を作れば食べてくれるのか」。しかし家庭の食事をきちんと作る余裕はない。育児と仕事を両立させたいと思っていたが、このままでは「子どもの食卓の記憶がすごく寂しいものになってしまう」......。たまたま当時の同僚で、現在シェアダインの代表取締役CEOでもある飯田陽狩氏も同様の悩みを抱えていた。
「私たちが今持っているような課題や悩みを抱えている人はたくさんいるのではないか。料理の専門家に相談して、作ってもらうことができれば、助かる人はかなりいるはず。それなら自分たちで仕組みを考えてみよう、というところからシェアダインの構想が生まれました。飯田から一緒に起業しようと誘われたのですが、面白いと思う一方で不安も大きかったですね。それが払拭されたのは、実際にプロの料理人に食事を作ってもらった時のことです。子どもの食べっぷりが全然違いました。偏食なんか嘘のようにすごい勢いで食べる。こういうシェフが100人いたら絶対事業として成り立つ、そう確信しました。やがて飯田と起業を検討する中で、料理のプロと一般家庭をマッチングさせるという、ビジネスのビジョンが生まれました」
こうして2017年に起業。「食卓から家庭料理を絶やさない」、「未来の子どもたちに家庭料理を継承していく」というのが、創業時の理念だった。サービスをローンチできたのが創業から約1年後。その間井出氏らが奮闘していたのは、料理人とユーザーをつなぐプラットフォームの構築であり、プラットフォームに登録する料理人の確保だった。やがて、その斬新なビジネスモデルが各種メディアで取り上げられるようになり、徐々に認知が広まっていった。予約前にシェフにアプローチができるなど、マッチングの仕組みに柔軟性を持たせたことも功を奏した。また、マッチング自体にも変化が生まれ始めていた。
「元々家庭の食卓のためという考えでしたが、そういった使い方ではないユーザーが増えてきました。たとえば糖尿病の方向けの料理や介護食、高齢者のための料理等々、プラットフォームにはシェフだけでなく管理栄養士も登録していましたから、マッチする人を紹介するようになりました。早い段階で子ども向けという考えは取り払って、『誰かのことを慮って作る料理を提供するサービス』というふうに考え方を変えていきました」
そしてコロナ禍。非接触が求められ、外出・外食を控えることが推奨され、多くの飲食店は厳しい経営を強いられた。シェアダインのサービスも家庭を訪問して接触する必要があったため、コロナ禍は逆風だった。「黙っていては、売上はゼロになる」、その危機感から井出氏らは行動を開始する。
「衛生ルールを徹底して見直し、レストランに行けない代わりにレストランのような食事をおうちで作ります、健康な食生活を私たちのサービスを通じて提供します、という文脈で打ち出し、ニーズをキャッチしていきました。また飲食店のシェフ向けには、私たちのプラットフォームでは新しい働き方、キャリア形成ができるというストーリーを作って訴求しました。家事代行ではなくプロフェッショナルなサービスであり、このタイミングで『シェフ応援プログラム』と銘打ち、レベルの高いシェフの獲得を積極的に進めました」
そしてシェアダインは新たなフェーズに突入する。従来の家庭向けにシェフをマッチングさせるサービス「シェアダイン」に加え、飲食店やホテル等の事業者向けにスポットでシェフを手配するサービス「スポットシェフ」を開始した。このサービスをローンチし規模拡大させるために行ったのが、DBJキャピタルからの投資による資金調達だった。2022年7月のことである。
「資金調達では多くの投資家の方と接触しますが、その中でいかにシェアダインを応援していただいているかが実感できます。DBJキャピタルの池上さんから、心からサポートする、応援するという真情が伝わってきて、『DBJキャピタルしかいない』となりました。また、投資後も、スポットシェフの戦略について一緒に協議しつつ、DBJのお客様をたくさんご紹介いただき、良い連携ができていると思っています。数年後のIPOも見据えており、今後もDBJキャピタルのサポートをお願いしたいと思っています」
「スポットシェフ」は、事業者の人手不足に対するソリューション、繁忙期の調整弁として利用が拡大しており、成長の原動力となっている。また「スポットシェフ」の存在は、料理人の仕事に対する考え方に変化を促している。飲食店勤務か独立か、ではない新たな働き方の提案であり、飲食業界へのインパクトは少なくない。登録料理人も8,000人を突破。さらに井出氏らは料理人のためのキャリアプラットフォームを構想している。料理人が自らのスキルと評価を可視化でき、キャリアを形成する場所という位置づけだ。日本のあらゆる料理人がここにまずは登録する、それが目指す姿である。
「私の信条は『意志あるところに道はある』。シェアダインの起業から今に至るまで、その考えで走ってきました。それを持続できたのは仲間がいたから。登録しているシェフ、一緒に働いているメンバー、そして投資家の方々。仲間がいるから、前を向いて歩んでいける、そう思っています」
DBJキャピタル株式会社
投資部 シニア・インベストメント・マネージャー
池上佳代
井出有希氏(左)と池上佳代(右)
この記事は季刊DBJ No.55に掲載されています
季刊DBJ No.55