DBJ Europe Limited

DBJ Europe Limited(DBJ Europe)は英国ロンドンに拠点を置く現地法人で、欧州、中東、アフリカ地域における企業、プロジェクトに関連する投融資サポート業務、アドバイザリー業務を担う。投融資案件の発掘やデューデリジェンス、現地情報の収集・発信などを行う中で、脱炭素に向けたエネルギートランジションをはじめ欧州の先進的な動きをいち早くキャッチし、関連する分野で広範な人的ネットワークを構築できる点は現地法人の強みだ。今回はそうしたDBJ Europeの活動と、ロンドンを拠点とした水素分野特化型のベンチャーキャピタル AP Venturesとの協業について紹介する。
DBJ Europeは、欧州を中心とするエリアにおいて、DBJが掲げるGRIT戦略※ の観点からエネルギー、交通、デジタル、それに今後の社会ニーズを踏まえた新分野という4領域を軸に事業を展開する(下図参照)。現地ならではの情報収集や人的ネットワークの拡大に努め、DBJによる企業やプロジェクト、ファンドなどへの投融資の実行やモニタリングをサポートしている。
また、関連セクターを担当するDBJ国内の部門と緊密に連携し、欧州の先進的な取り組みから得た知見を国内に還元することも重要な役割となる。さらに現地で培ったネットワークとDBJが持つ国内ネットワークを生かして、欧州企業と日本の企業や投資家との接点を設けるなど、国境を越えたコラボレーションも促進している。同社を含めたDBJグループ全体では、財務力、イノベーション、グローバルな連結性を組み合わせ、日本企業が市場で成功するだけでなく、より広範な地域や社会づくり、カーボンニュートラルの実現などにも貢献できるような支援を目指している。
顧客と主に接するDBJ Europeのフロント業務は、先述の4領域を約10名のメンバーで担当する。国内のDBJでは業界や地域に特化した業務で専門性を高められるが、DBJ Europeは一人ひとりが幅広い業界・地域を担当することで広範な知見を得る経験ができるのも特徴だ。
DBJ Europeの水素/アンモニア/CCS(二酸化炭素回収・貯留)を含む新領域を担当するチーム(以下、水素チーム)でリーダーを務める島崎可奈子は、「ロンドンを拠点とするDBJ Europeの"地の利"を十分に生かしたネットワークの拡大や日本への情報提供を心がけている」と語る。
「例えば欧州では、温室効果ガスの実質的な排出量をゼロにする『カーボンニュートラル』の目標達成に向け、水素が重要な役割を担うとされ、様々なプロジェクトが進められています。先進的な政策や補助金制度、規制の導入にも積極的です。さらにDBJ Europeでは、北欧のように豊富な資源を持ち、再生可能エネルギーの利用率が高い国や地域、エネルギー政策の転換を急ぐ中東などからの情報も得られ、日本の現状や課題を意識しながらカーボンニュートラルに向けた取り組みの参考となる情報提供を目指しています」(島崎)
2024年6月からDBJ Europeにトレーニー派遣されている入行5年目の大島万奈は、「カーボンニュートラルに関するルールメーカーとなっている欧州の最新動向を直接見聞きでき、最前線で活躍する事業者や投資家などと直接対話する機会も豊富な点が非常に刺激的だ」と話す。「エネルギー業界の今後に向けた欧州のダイナミズムを俯瞰する中で、翻って日本経済の中長期的な発展には何が必要かを考える機会になっていると感じます」(大島)
水素チームにはもう一人欠かせない存在として、イギリス出身のローカルスタッフであるKevin Solomonがおり、チームは多様なバックグラウンドを持つ人材で構成されている。
Kevinは「DBJ Europeでは欧州市場のダイナミクス、各種の規制、投資環境を理解し、DBJの戦略的な意思決定に役立てることができる」と欧州に拠点を置く強みを強調する。
水素チームのメンバーは欧州各地で開催されるカンファレンスにも積極的に参加し、主催者・参加者との面談を通して今後の方針や先進事例について情報交換するなど、ネットワーキングも精力的に行う。島崎と大島は「現地の情報に詳しいKevinはリレーションづくりでも非常に心強いメンバーです」と口をそろえる。
写真左より大島万奈、島崎可奈子、Kevin Solomon
水素チームは、既存のエネルギーシステムに変革をもたらす可能性を持つ新興のクリーンテクノロジー投資の促進を重点分野とする。世界的にカーボンニュートラルが掲げられる中、DBJの顧客にはその実現に課題を抱える企業も多い。島崎は「各社のGXに向けた取り組みに対するサポート役としてもDBJ Europeは貢献できる」と話す。
「クリーンエネルギー分野では多くの新たな技術が登場しています。多様な知識のキャッチアップに苦労されている企業に対し、日本の数年先の姿といえる欧州の状況をもとに、生きた情報を提供したいと考えています」(島崎)
2050年までに実現を目指すカーボンニュートラルの取り組みは今後本格化することは間違いない。水素バリューチェーンにおける製造(上流)や輸送・貯蔵(中流)、消費(下流)のいずれにおいても商用化に向け途上の技術が多く、また需要家の育成や獲得など、水素社会の実現に向けた課題も山積しているが、「それらを一つひとつ解決するための投資を増やしていきたい」と島崎は言う。
DBJによる水素分野の投融資においては、ファンドへの出資にも取り組んでおり、2022年にHy24 SAS(本社:フランス)が運営する低排出水素に特化したファンドに出資、2024年には水素分野に特化したベンチャーキャピタルAP Ventures LLP(以下、AP Ventures、本社:英国)が運営するファンドに出資。ファンドを通して、水素関連のインフラを手掛ける企業や技術を持つスタートアップに間接的に出資している。次ページからはケーススタディとしてAP Venturesへの出資について紹介する。
※ 持続可能な社会の実現に向けてGreen(カーボンニューラルに向けた取り組み)、Resilience & Recovery(しなやかで強靱な産業や社会を支援する取り組み)、Innovation、Transition/Transformationの観点から投融資を行う。
この記事は季刊DBJ No.56に掲載されています
季刊DBJ No.56