DBJ Group TOPICS

DBJ Europe Limited

2024年2月、DBJはAP Venturesが運営する革新的な水素関連技術を有するスタートアップを投資対象とするファンドに出資した。DBJは本投資を通じて、イノベーションを促進し水素社会の実現、ひいてはカーボンニュートラル達成に貢献することを目指している。
欧州の水素市場に着目したDBJ Europeは、業界調査や関係者との人脈を築きながら投融資の機会を模索する中、AP Venturesと出会った。複数回の面談を重ね、AP Venturesが持つスキルと経験により優良な投資先を選別できると判断し出資に至った。DBJはAP Venturesが運営するファンドに出資するLP(Limited Partnership)投資家だが、AP Venturesと密に連携し、投資先の技術やマーケット動向を把握し、時には投資先と直接会話することで、知見を培っている。また、同社および投資先の水素関連スタートアップと日本企業をつなぐことも出資の目的として掲げ、従来のLP投資家の枠を超えた関係性を築いている。

[Case Study]AP Ventures LLP
水素特化ベンチャーキャピタルファンドへの
出資によりイノベーションを促進する

Andrew Hinkly氏

AP Ventures
Managing Partner
Andrew Hinkly氏

Penny Freer氏

AP Ventures
Chairman
Penny Freer氏

低排出水素への転換とカーボンニュートラル実現を目指して
戦略的なスタートアップ投資を行うAP Ventures

ロンドンに拠点を置くAP Venturesは水素分野に特化したベンチャーキャピタルで、上流から下流まで水素のバリューチェーン全体を投資対象とする。同社は鉱業資源メジャーAnglo American社のコーポレートVCとして発足し、2011年よりプラチナの需要拡大につながる水素に関連する投資を開始した。その後、より長期的・戦略的な投資のため独立し、2018年にAndrew Hinkly氏およびKevin Eggers氏がAP Venturesを設立した。Penny Freer氏もChairmanとして加わり、現在は約30名でアーリーステージの水素関連スタートアップへの投資を行う。
Freer氏は同社について「技術革新や潜在的な市場を分析し、スタートアップが持つ技術の価値を適切に把握して投資先を選定できるのが強み。社内のメンバーの知見やスキルを最大限に生かして優良な投資先を見つけることができる」と評価する。
また、Hinkly氏によれば、2023年の世界の水素需要は9,700万トンだが、「これらの水素のほとんどが化石燃料由来のグレー水素で、水素製造により9億トンのCO2が排出されたとの試算もある。カーボンニュートラルの実現には、製造過程からCO2の排出を抑えた低排出水素への転換が必要です」と言う。

転換には、コスト競争力のある低排出水素の製造および技術の実用化が必須とAP Venturesは見ている。そのため同社では、グリーン水素製造に必要な水電解技術に着目し、プロトン交換膜(PEM)を使う水電解装置を製造する企業にも投資している。
Hinkly氏は「水素は、鉄鋼・化学、航空・船舶、モビリティ、発電などのCO2排出量の多いプロセスに利用することが可能」と話す。IEAによると、水素需要は2030年までに約1億5,000万トンに達すると予測されている。

AP Venturesが評価するDBJとのコラボレーション
日本の水素市場を後押しする役割に

多様な産業のカーボンニュートラルに資する水素の活用に向けて、日本では2017年に水素基本戦略を策定し、2024年5月には水素社会推進法が成立、低炭素水素等の価格と既存燃料・原料の価格の差額を支援する入札も行われる。Hinkly氏は「エネルギーの多くを輸入に頼る日本では、水素バリューチェーンの中流部分、輸送・貯蔵が重要」と強調する。
「私たちのファンドでも水素の輸送・貯蔵を効果的に行う技術を持つ企業に投資しています。例えば水素を有機化合物に吸収させて輸送・貯蔵する技術、水素を運ぶ触媒となりうるアンモニアから水素を取り出す技術などは、将来の日本の水素輸入を支える技術ではないでしょうか」(Hinkly氏)

水素は圧縮・液化などの状態変化や化学変化により輸送・貯蔵可能な状態に変換でき、エネルギーの需給バランスや市場の価格変動に合わせてエネルギーを貯蔵・供給することも可能だ。また、燃料電池によるエネルギー供給にも利用できる。
欧米でも水素分野の技術革新が進み、実証プロジェクトも増えているが、現地の生の情報は日本ではなかなか得られず、温度感も伝わりづらいのが現状だ。そこでDBJ EuropeはAP Venturesを日本に招き、DBJの取引先で水素分野に関心を持つ企業に対してワークショップを開催した。こうしたDBJとAP Venturesとの関係についてFreer氏は「お互いの強みを生かした良いコラボレーション」と語る。
「数多くの日本企業がAP Venturesのファンドに出資していることを嬉しく思っています。DBJが大切にする日本への知見還元という考え方は非常に興味深く、また日本国内での信頼が厚いDBJが先行して水素分野に投資することは、他の投資家の関心を高めることにもつながっています。私たちとの共同投資にも積極的で、今後さらなる広がりにも期待しています。」(Freer氏)

EUでは、2022年にエネルギー安全保障を目的とし化石燃料依存からの脱却を加速させる「REPowerEU」計画が発表され、水素への注目度が一段と高まっている。EUでは水素銀行やIPCEI(欧州共通の重要プロジェクト)、EUイノベーション基金による支援策が打ち出され、英国も水素製造者に長期固定価格で水素を買い取る差金決済契約が導入されている。米国ではIRA(インフレ抑制法)によるインセンティブを活用し低排出水素の製造を支援しており、これらに後押しされて水素プロジェクトも拡大している。

日本も官民一体で水素利用の促進を目指している。プロジェクトの始動にあたっては、水素や関連する脱炭素に係る投融資を行うDBJの知見が大いに生かせるだろう。DBJグループは、ドラスティックな変化が求められる日本の企業の今後をともに考え、戦略的で持続可能なパートナーとして存在感を高めていく。


再生可能エネルギーで水を電気分解してつくるなど製造時にCO2を出さない「グリーン水素」、天然ガスや石炭等の化石燃料から水素を製造過程で発生するCO2を回収・貯留した「ブルー水素」を総合した水素の意味



AP Venturesと日本企業とのワークショップを開催

DBJの取引先企業のうち水素分野に高い関心を持つ企業を招き、AP Venturesのメンバーと水素業界・技術動向に関する情報交換、今後に向けた業界展望の議論などを行うワークショップが2024年10月に開催された。テーマは水素製造(水電解装置)、水素の運搬・貯蔵、合成燃料、CCUSと注目を集めるトピックを取り上げた。
参加者からは「水素関連の先端技術を網羅的かつ具体的に知ることができた」、「有望なスタートアップへの投資実績を持つAP Venturesの戦略を聞き、水素業界への投資への後押しとなった」など、AP Venturesが積み上げてきた実績に基づく専門的な情報と見解により、水素市場への期待や事業意欲が高まったとの声が多く聞かれた。
参加したAP VenturesのKevin Eggers氏は「日本企業のエネルギートランジションの取り組みは素晴らしく、このような日本企業との接点は、今後のAP Venturesの目指す姿の実現に必ず貢献すると思います」と振り返る。
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この記事は季刊DBJ No.56に掲載されています

季刊DBJ No.56