ネクスト・ジャパン最前線

モデルケース紹介

GPU専用データセンター設立を
香川県の成長戦略の軸に
~新産業創出により地域経済の活性化に寄与~

株式会社ハイレゾ

今、生成AIの活用が様々な分野や産業において注目を集めている。ITベンチャーである株式会社ハイレゾは、生成AI開発に必要不可欠なインフラ基盤であるGPUを確保し、クラウドサービスを通じて幅広い事業者に提供するため、GPU専用データセンターを香川県に建設、稼働した。一般のデータセンターと異なり「AIファクトリー」ともいわれるGPU専用データセンター開発に、株式会社日本政策投資銀行(DBJ)は共同投資家らと出資。生成AI開発に係るサプライチェーンの強靱化とともに、地方活性化に資する取り組みとなった。株式会社ハイレゾの代表取締役社長の志倉喜幸氏らに、プロジェクトの背景や経緯、今後の展望等を伺った。

株式会社ハイレゾ
代表取締役社長 志倉喜幸氏 (写真中央)
取締役CFO 杉村大輔氏 (写真右)
取締役 小林稔氏 (写真左)

「ChatGPT」の登場で生まれた生成AIブーム
石川県から香川県へデータセンター事業が加速

2007年、ITベンチャーとして創業したと伺っています。当時から、現在の事業構想を描いていたのでしょうか。

志倉 私たちはプログラミング受注、ソーシャルゲーム開発、アイ・モード開発、グラフィック系の開発などを手掛けるベンチャー企業としてスタートしました。約15年前、GPUは主にゲーム開発で使われていました。しかし、ゲーム業界は数年サイクルでトレンドが変化していく世界で、容易に経営が安定しなかったのも事実です。そうした中、取引があった米国最大のGPUメーカーであるNVIDIA社が、「いずれAIの時代が来る、GPUはそれを牽引するデバイスになる」と予測していました。私たちはその言葉を信じて、次のAIブームが到来するのを待ったわけです。

生成AI開発に不可欠とされるGPUですが、どのようなデバイスなのか、改めてお聞かせください。

志倉 GPUは、「Graphics Processing Unit」の略で、画像処理装置を意味します。その名の通り、画像を描写するために必要な計算を処理するものです。画像処理では膨大なデータを瞬時に計算する必要があるため、ビッグデータを処理するのにも適しています。一番の特徴は、並列処理能力に優れていること。内部でコアが連携して動作することで並列処理が行えるため、演算の処理スピードがCPUの10倍ともいわれています。わかりやすくいえば、複雑で膨大な計算を高速で行うスーパーコンピュータの計算を可能にしている機能の一つがGPUです。私たちは10年前からGPUサーバを貸し出すことで、事業を継続していきました。

AIの時代は、今まさに到来したと思われますが、そのきっかけは何だったのでしょうか。

志倉 2022年の「ChatGPT」の登場です。「ChatGPT」は、ご承知のように、高度なAI技術によって、人間のように自然な会話ができるAIチャットサービスです。生成した文章の精度や人間味のある回答が話題となり、大きな注目を集めるようになりました。これによってGPUサーバ貸出先となる顧客の需要も拡大していきました。1970年代頃から何度かのAIブームがありましたが、ディープラーニングの進化やデータ量の増大、そしてGPUの普及などで、第3次AIブームが到来しました。私たちは、時代の要請に応える形で、GPU専用データセンターの運営に着手しました。最初に石川県志賀町に日本最大規模となるGPU専用データセンターを建設し、2022年8月に稼働しました。

今回、香川県高松市で新たなデータセンターを建設・稼働させましたが、その経緯をお聞かせください。

志倉 GPUデータセンター事業の拡大に向け、進出先の検討を進めていましたが、当時、受け入れ先の自治体が見つからず、誘致の要請もありませんでした。そんな折、香川県から企業誘致に関するアンケートが届いたのです。私たちが進めるGPU専用データセンターが社会的意義、地域活性化にも資する取り組みであることなどを丁寧に回答した結果、香川県から誘致に関して前向きな打診をいただきました。1年半に亘って検討を進め、両者合意の下、GPU専用データセンターの建設が決まりました。具体的には、高松市にある研究施設「RISTかがわ」および綾歌郡綾川町の旧綾上中学校(廃校)を利活用して開発を実施。「RISTかがわ」を利活用した施設は2024年12月に稼働、廃校利用の施設は2025年の稼働を予定しています。

香川県高松市データセンター・綾川町データセンター

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(写真提供:株式会社ハイレゾ)

ハイレゾ香川の事業スキーム

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海外メガクラウド依存から脱却して低コストを実現
「AIファクトリー」として独自のサービスを提供

第3次AIブームといわれていますが、国内において生成AIの取り組みなど市場は活性化しているのでしょうか。

志倉 日本の計算資源は海外メガクラウド事業者が提供しているサービスに依存している状況にあり、国内に設置している主要なAI用計算資源は、低い水準に留まっているのが現状です。必然的に生成AIの取り組みも海外に比べて遅れています。その要因の一つが計算コストの高さ。企業が扱うデータが爆発的に増加し続ける中、既存のGPUクラウドサービスはコスト高騰が大きな課題であり、AIなどの社会実装の大きな足かせになっています。私たちのデータセンターは、GPUクラウドサービスに特化した最適設計により圧倒的なコストパフォーマンスを発揮します。この強みを生かしたサービスを提供し、計算資源をインフラとして整備していきます。現在、研究機関やベンチャー企業、大手企業にサービスを提供していますが、マクロ的に見れば確実に需要は拡大していきますし、国内のみならずアジア圏の需要も取り込んでいきたいと思っています。

今、日本では外資も含めてデータセンターの着工ラッシュが続いていますが、貴社の強みをお聞かせください。

志倉 通常、データセンターには高速性が求められます。しかし、私たちのGPU専用データセンターを利用するお客様は通信速度よりもコストメリットを重視されます。地方立地が可能なのも、速度に重きを置いていないからです。私たちのビジネスは、いわばスーパーコンピュータを、お客様の要望に合わせて1時間~1ヵ月単位で貸し出すビジネス。NVIDIA社の社長が、「GPU専用データセンターは一般のデータセンターと区別し、『AIファクトリー』と呼んだ方がいい」と言っています。このようにGPU特化型のデータセンターであることに加え、消費電力を大幅に抑え、電力の一部を再生可能エネルギーから調達するなど、脱炭素化も推進しています。また、クラウドサービス、サーバ、データセンターをすべて自社設計する垂直統合モデルを採用し全体最適化を図ることで、省エネやコスト低減を実現しています。

雇用創出、税収拡大、地元事業者の活性化
そして、地域の人々に活力と元気を与える

 今回の取り組みは、地域活性化にどのように貢献できるとお考えでしょうか。

志倉 まず、香川県の産業振興に寄与できると考えています。その一つが雇用創出。工場誘致のような大規模雇用でなくても、IT系雇用の受け皿を作った意義は大きいと思います。石川県志賀町にデータセンターを建設・稼働したときに感じたことがあります。地元の求職者はアンケートでは「働く場所(求人)がない」と回答しますが、実際にヒアリングすると「働きたい仕事がない」というのが本音でした。データセンターの建設で、就きたい職種を増やすことにつなげられたと思います。また固定資産税をはじめ、自治体の税収増加にも寄与できます。データセンターの建設、その後の運営では地元の事業者と協働・連携していく必要があり、地元経済の活性化も期待できると思います。今回のデータセンターは既存施設をリノベーションして利活用する取り組みですが、社会課題である地域の過疎化に対する一つの処方箋を示せたとも思います。個人的には新しい産業が過疎地域から生まれたことで地域の人々が未来に光を感じ、活力をもたらすことができたのではないかと考えています。



事業リスクをシェアするパートナーとしてのDBJ
今後のベンチャーの育成・サポートに期待

今回のGPUデータセンター開発においては、株式会社ハイレゾ香川を設立、総額100億円の資金調達を実施されました。その経緯をお聞かせください。

志倉 GPUサーバは1台4,000~5,000万円、それを100台単位でセンター内に設置する計画でしたから、私たちにとって莫大な投資になります。本事業は事前に確定したキャッシュフローがあるわけではないため、一般の金融機関や投資家からはリスクが高い案件と捉えられがちです。そんな中、私たちのGPUデータセンター事業が経済産業省より「特定重要物資供給確保計画」として認定いただき、助成金を獲得。GPUインフラの確保が日本経済の成長発展に必要であること、地域経済の活性化に資するものであること、GPUを投資対象としたファイナンス機会の提供が新たな投資アセットの開拓や促進に寄与することに理解・納得をいただき、DBJならびに共同投資家からの資金調達を実現することができました。

これからDBJに期待することをお聞かせください。

志倉 リスクシェアを行うパートナーとして、DBJからの出資を受けることができたことは、率直にいってありがたい限りでした。これによって、ベンチャーとしての信用度、GPU専用データセンターの評価を向上させることができました。今後もDBJには私たちのようなベンチャーに伴走し、リスクテイクし、サポートいただきたいと思っています。

志倉喜幸氏

志倉喜幸氏
「香川のプロジェクトを皮切りに、全国に GPU 専用データセンターを展開していきたいと考えています。それが世界で戦う企業を応援し、日本の国際競争力の強化に貢献すると考えています」

小林稔氏

小林稔氏
「企業誘致アンケートから始まったプロジェクトであり、私はそのフロントに立ちました。地域活性化も含め日本にとって意義のあるプロジェクトであり、必ず成功させたいと思っています」

杉村大輔氏

杉村大輔氏
「ハイレゾの大きなチャレンジに惹かれて、最近入社しました。財務の専門性を発揮して、日本に GPU マーケットを定着させていく、その基盤づくりに取り組んでいきたいと考えています」

この記事は季刊DBJ No.56に掲載されています

季刊DBJ No.56