モデルケース紹介

蔵王中央高原のブランディングを起爆剤に
地域全体の活性化を目指す
~地元金融機関とDBJの協調支援による
新設会社の支援~
CKD株式会社
世界的に有名な蔵王地域の中でも、山形県にある中央高原エリアは例年5月頃までスキーが楽しめ、秋の紅葉、四季を通じたトレッキングなど豊富な観光資源を持つ。それらをブランディングして目的客を増やし、蔵王全体の地域活性化まで目指すのがCKD株式会社である。2023年11月、株式会社日本政策投資銀行(DBJ)は地元の株式会社きらやか銀行、株式会社山形銀行と連携し、同社に協調支援を行った。同社設立に深く関わったCKD株式会社の菊地昭貴氏、池田洋氏、平井康博氏、今田聡氏に現状や今後の目標などを伺った。

CKD株式会社 代表取締役社長
菊地昭貴氏
(株式会社三五郎 代表取締役社長)

CKD株式会社 取締役会長
平井康博氏
(株式会社ヤマコー 代表取締役社長)

CKD株式会社 代表取締役専務
池田洋氏
(蔵王観光開発株式会社 代表取締役社長)

CKD株式会社 取締役
今田聡氏
(株式会社ヤマコー 取締役 経営企画室長)
中央高原に関わる地元企業3社が設立した
新会社が目指す「ブランディング」
蔵王には複数のスキー場が点在します。中央高原を含む蔵王温泉スキー場にはどんな課題があったのでしょうか?
平井 スノーモンスターとも呼ばれる樹氷がある樹氷原は世界的に有名です。中央高原はそこからやや離れるものの、木々に無数の氷が付く霧氷、上質なパウダースノーで例年5月まで楽しめるスキー場など、冬の魅力で多くの観光客を集めてきました。 しかし、1990年代のピーク時に比べると蔵王温泉スキー場全体でスキー客は約4分の1になり、温泉客も同様に減少。そのため、ここ数年は「蔵王を何とか盛り上げよう」という機運がスキー場と温泉街の双方で高まり、グリーンシーズンの集客に力を入れる動きが活発になっていました。
菊池 特に中央高原エリアでは以前から関連企業が協力してCKVEC(中央高原活性化実行委員会)を立ち上げ、四季折々の楽しみ方を広く情報発信し、夏季に『蔵王中央高原グリーンフェスタ』などのイベントも開催してきました。その縁もあり、平井社長から「中央高原の入口となる蔵王中央ロープウェイの鳥兜駅で観光拠点づくりに協力してほしい」と声をかけていただいたのです。当初は駅併設のレストハウスをリニューアルしたカフェの経営を任せたいという話でしたが、逆に私から地元3社による新会社の設立を提案。新会社・CKDを中心に豊富な観光資源を積極的に活用し、中央高原をブランディングして目的客を多く取り込みたいとお話ししました。CKDでは宿泊施設「Forest inn SANGORO」を運営する当社と、蔵王中央ロープウェイ・蔵王スカイケーブルを持つ蔵王観光開発の協力が、メニューやアクティビティの開発など各所で相乗効果を生んでいます。さらに公共交通をはじめ地域で広く事業展開するヤマコーの参加はCKDの信頼性を高めてくれ、地域事業者への影響力という点でも心強く感じています。
池田 中央高原は雪質の良さや長期間滑れることでスキー客に人気ですが、ほかの季節は魅力的なコンテンツが十分にアピールできておらず、集客増には「これを体験したい」と目的を持って来ていただけるようブランディングが急務でした。現在はCKVECで実施したドッグランやバギーの体験乗車なども参考に、グリーンシーズンの企画を検討しています。
平井 ただ景色を眺めてすぐに下山するのではなく、ドッグランやトレッキング、各種のアクティビティを通して中央高原がファミリーで楽しめる場所になることで、滞在時間を数時間延ばし、最終的には蔵王温泉で1泊していただけるなど蔵王地域全体に波及する試みになればと考えています。
新たな観光拠点となったカフェの特徴やインバウンドの観光客への取り組みなどを教えてください。
池田 2023年12月にオープンしたカフェ「SORAMADO cafe 1387-ISAHANA」は、蔵王中央ロープウェイの終点である鳥兜駅に直結した施設です。以前は昔ながらのレストハウスでラーメンなどを提供していましたが、新たなカフェは四季を通じて中央高原での活動拠点にしたいと考えています。
菊池 カフェの室内は注文カウンター、テーブルとイスだけのシンプルモダンな造りで、外には中央高原を一望できる霧氷テラスを設けているのが特徴です。夏季にはテラスでジャズライブを開催するなど、カフェを目的化する試みも行っています。メニューは山形県の特産物を生かし、山形牛やだだちゃ豆のクロワッサンサンド、ネオ IMONI スープ、地元産の野菜・果物を使った飲み物などを多数ご用意しました。また、インバウンドの観光客への対応を考え、カフェには日本語、英語、中国語に対応できるスタッフを配置しています。
池田 樹氷原に向かうロープウェイには長い待ち時間が発生することが多く、それを待つのが難しい観光客が中央高原の「SORAMADO」に来られるケースも増えていますね。中央高原は積雪が多く、真っ白なゲレンデをカフェのテラスから見下ろす体験は東南アジアの観光客に人気です。オープン当初にツアー客がたまたまカフェを訪れてくれたことから、口コミでインバウンドの客が次第に増え、最近は冬だけでなくグリーンシーズンにも台湾や韓国の観光客に来ていただけるようになりました。カフェの来客数は当社が決めた目標値の1.4倍ほどと好調です。蔵王観光開発ではインバウンドの団体数はもともと数えるほどでしたが、2024年度は紅葉シーズンの10月で昨対比179.7%、11月は昨対比677.0%となっています。
平井 蔵王温泉スキー場の観光客は減少しても、実は樹氷原付近は国内外の観光客によるオーバーツーリズムの状態が続いています。このカフェを起爆剤に中央高原の魅力を広くアピールすることは、そうした観光客の偏りを軽減し、蔵王全体の地域活性化につながると期待しています。
山形県・蔵王地域における観光入込客数の推移
※「山形県観光者数調査」(県観光交流拡大課)の観光入込客数のうち、蔵王地域の各観光地点の入込客数の合計値
出典:山形県
蔵王観光開発インバウンド団体受付数
出典:蔵王観光開発調べ
蔵王が360度見渡せる立地を生かし
カフェをさらに強力なコンテンツに
中央高原のさらなるアピールをはじめCKDとしての今後の取り組みについて教えてください。
菊池 まずはカフェを強力なキラーコンテンツにして、「ブランド化」をさらに進める予定です。カフェがある鳥兜山は蔵王の中でも唯一360度の視界が開け、蔵王連峰の地蔵岳や、三宝荒神山の断崖ほか、鳥海山など県内の山々が一望できます。このパノラマビューを生かし、カフェの2階に周囲が360度見渡せるテラスを設置することで、カフェとの相乗効果でより多くの集客が期待できます。また、CKDの設立により当社と蔵王観光開発の従業員が交流する機会が増え、両社の従業員から「こんなことをやりたい」という意見が活発に出るようになりました。山形牛やだだちゃ豆を使ったメニューも、そうした声から生まれました。地域活性化に欠かせない人材育成にはこれからも力を入れたいですね。
池田 直近の取り組みとしては、冬季のアクティビティ強化策としてスキーやスノーボードのレンタル事業も開始予定です。加えて、中央高原での企画や催しなどを観光客にご案内いただけるよう温泉街との連携もさらに深めたいと考えています。
DBJと地元金融機関との協調支援を受けられたことで、どんなメリットを感じておられますか?
今田 私たち地元の企業はきらやか銀行、山形銀行といった地方銀行との関係も深いのですが、それを協調支援という形にまとめていただいたDBJの役割は大きいと感じています。また、国内外で事業展開するDBJがCKDの支援に加わったことは、地域事業者へのアピールという点で追い風になるのではないでしょうか。
菊池 DBJの担当者からは各地の地域活性化の事例など多くの情報提供がありました。今後は成功事例だけでなく失敗事例も提供いただき、CKDの運営の参考にしたいと思います。
平井 確かに条件を詰める中で、担当者からCKDの事業内容などにアドバイスをもらうことも多く、非常に前向きに取り組んでくれていると実感できました。カフェ開業を一つの土台とし、CKDを設立した3社もそれぞれに事業を拡大していきたいと思っています。
カフェ周辺の施設マップ
出典:山形市観光協会提供資料を加工して作成

人気メニューの紫芋のポタージュ
(写真提供:CKD株式会社)

グリーンシーズンの企画の一つ「ドッグラン」
(写真提供:CKD株式会社)
この記事は季刊DBJ No.56に掲載されています
季刊DBJ No.56