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設備投資研究所小史

当研究所は、1964年7月に旧・日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)の一部局として設立されました。その設立構想段階においては、設備投資が経済成長にとって重要な意味を持つにもかかわらず、既存の調査機関では設備投資に関する本格的な分析がなされていないという認識がありました。また、研究の主体は、特定の利害を代表するものではなく中立的であること、さらに研究スタンスは、実証的であると同時に長期的であることが望ましいと考えられました。このような背景から、設備投資のファイナンスに豊富な経験を持ち、実証研究を行うに足る豊富なデータを備え、かつ政府系金融機関として中立的な立場にある開銀が、その研究主体として最も相応しいと判断されました。設立当初から、初代所長下村治博士を囲んで、学界から新進気鋭の研究者を招いた自由討論会が活発に開かれ、先生方と各研究員との共同研究などを通じて、多くの研究成果が蓄積されていきました。その分野は、設備投資を中核としつつも、金融・財政、技術開発、産業構造・労働、地域・社会開発、資源・環境など多方面にわたり、今日まで継続しています。下村博士の功績に敬意を表して1990年に開始した外国人客員研究員の招聘制度「下村フェローシップ」ではこれまで世界中の大学・研究機関から累計40人以上の有力研究者を招聘し、アカデミック&リベラルな研究所の気風はグローバル研究交流にも広がっています。

設立当初から期待されていたもう1つの役割は、経営分析や審査手法の近代化を図るための経営研究の場となるということでした。このような要請から、研究所発足と同時に経営研究班が置かれました。同班は、のちの財務データバンクの雛形となる財務データの収集作業とともに、それらのデータを活用した財務分析手法の開発に着手しました。また、同班は新入行員の財務分析研修の場としても機能することとなりました。

設備投資研究所の研究課題は、2度のオイル・ショック後、高度成長から低成長への移行という経済環境の変化に対応して、70年代後半以降変貌を遂げています。すなわち、設備投資の分野では、エネルギー制約やサプライショックが生じたもとでの投資行動分析、設備投資を促進させるための税制のあり方、経済をサプライサイドから活性化させるためのR&Dの役割、あるいは政策金融が果たすべき新たな役割などが研究対象に加わりました。さらに、20世紀末には地球的規模での環境汚染、所得や富の分配の不平等化、世界の至る地域で発生する金融危機など、数多くの社会的、経済的諸課題が認識されてきました。このような困難な状況のなかで、宇沢弘文先生によって提唱されていた社会的共通資本は、まさに市民の基本的権利を充足させるために必要不可欠な財・サービスを生み出すような資本概念であり、社会全体の共通の財産として管理されるべきものであります。1990年代に入って、設備投資研究所では、このような社会的共通資本の重要性に鑑み、その構成要素である自然資本、物的インフラ、教育・医療・金融・企業システムなどの制度資本に関する研究を業務の重要な柱の1つに据えるべく、1993年に「地球温暖化研究センター」を開設しました。

日本政策投資銀行は2008年10月に株式会社となり、民営化に向けた新たな歩みを始めました。このような環境変化に適切に対応するために、設備投資研究所では、2008年度より企業向けの高度な金融業務を担う人材育成の一環として、若手のDBJ行員および外部の金融機関等職員に対する研修・教育プログラムである「DBJ金融アカデミー」をスタートさせました。また企業金融、銀行行動および金融市場等に関する研究を集中的に実施する目的で2009年度には、「金融経済研究センター」を発足、IFRSをはじめとする会計全般に係る情報収集とリサーチ機能の強化等の観点から、2012年度には、「経済経営研究グループ」を「経営会計研究室」へ改組しました。2014年には設立50周年を迎え、記念論文集『日本経済 変革期の金融と企業行動』および『日本経済 社会的共通資本と持続的発展』を東京大学出版会から刊行するとともに、英文研究誌“SpringerBriefs in Economics”を創刊し、研究所に関わりのある日本の研究者の研究成果を世界に発信しています。