Story
INTERVIEW
DBJの人と仕事
苦境下で問われるDBJバンカーの真価。
経済社会のスタビライザーとなる。
SHOKO ITAMI
伊丹 祥子
2017年入行
総合職|産業|地域|危機対応
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1年目~
企業金融第4部
RM(法人営業)として海運事業者向けシップファイナンスを担当する。
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3年目~
中国支店
山陰エリアと広島県の事業者向け投融資業務に従事し、地域活性化に携わる。
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5年目~
業務企画部
危機対応業務特別対応室で危機対応業務の専任メンバーとなる。
2021年3月24日、新型コロナウイルス感染症による影響への対応を強化すべく、DBJ内に「危機対応業務特別対応室」が新設されるとともに、同対応室内に「飲食・宿泊専門チーム」が立ち上げられた。政府からの要請を受け、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置により深刻な影響を受けた飲食・宿泊事業者に対し、資金繰りや財務状況改善のためのファイナンス支援を行うことが目的だ。伊丹祥子もメンバーの一員として同年6月にチームに合流し、その責務を果たした。
※この記事は2021年に取材を行ったものです
政府からの要請を受けて
始動する危機対応業務。
―― 「飲食・宿泊専門チーム」に加わったときの様子を教えてください。
初めてチームメンバーと会議室で顔を合わせた時、危機対応業務ということで、その場には独特の緊張感が漂っていたことを覚えています。それこそ、もう来月には資金繰りが破綻してしまうかもしれない企業に対しファイナンスを行う必要がありますので、迅速な判断、的確な対応というものが高度に求められることを皆、自覚していました。そうした気負いが張り詰めた空気を生み出していたのだと思います。
―― その危機対応業務ですが、どういった業務なのですか?
金融危機や大規模災害等により多くの企業が危機的状況に陥った際、政府からの要請を受け、DBJを含む指定金融機関がお客様を支援して、日本の経済社会の安定化を図るものです。今回の新型コロナウイルス感染症への対応もこの危機対応業務に認定されています。
―― 危機対応業務では、具体的にどのようなソリューションを提供するのですか?
シニアローン(融資)だけでなく、劣後ローンや優先株などの資本性資金も投入しています。各手法の基本的な考え方としては、資金繰りを支えなければいけないお客様にはシニアローンを主体に、資本増強が必要なお客様には劣後ローンや優先株を主体に、といったかたちを基本形としながら、あとは個別に検討しつつ支援の枠組みをつくっていきます。コロナ禍の長期化に合わせ、よりリスクの高い資本性資金への需要が高まっており、改めて事態の深刻さを感じるところです。
中長期的に事業を継続するための
安定した枠組みを構築する。
―― 一連の業務において難しいのは、どのようなことですか?
DBJの危機対応業務というのは、たとえば雇用調整助成金のような補助金ではなく、あくまでファイナンスです。よって、ファイナンスを検討するにあたっては、通常の投融資案件と同様に、顧客の情報を整理し、企業審査および行内外の調整を実施する必要があります。コロナ禍という不確実性の高い環境において、企業の継続性・将来性を判断するためには、納得がいくまで様々なシミュレーションを行い、行内で議論を尽くします。と同時に、迅速性も問われますので、深い分析とスピード感の両立が求められる高度な業務だと感じます。加えて、支援の枠組みをつくる際には、行外関係者の協力も取り付ける必要があり、これもまた難しいポイントです。
―― 行外の関係者、というと?
社長をはじめとする経営陣、株主、取引金融機関。さらに飲食業のお客様であれば飲料メーカー等、宿泊業のお客様であれば物件を貸しているオーナー等の主要なステークホルダーです。どうしてこのような関係者まで巻き込んでいく必要があるかと言えば、危機対応業務における投融資はあくまで手段であって、目的は事業継続に向けた支援の枠組みをつくることにあるからです。とはいえ、配属当初の私はそれを完全には理解できていませんでした。資金繰りがひっ迫した企業に対し、とにかく早くファイナンスしてあげたいという焦りの気持ちが強く、結果として投融資が目的となってしまっていたのです。その点を上司に指摘され、そこで改めてDBJバンカーに求められるものは何かということを理解しました。
―― 上司からは何と言われたのですか?
「ただ資金を出すだけでは、数ヶ月延命させるだけ。根本的な原因を解決しなければ会社のためにならない」と。このひと言に私はハッとさせられました。確かに迅速性は大事なのですが、ここでDBJとして果たすべきは、その企業が中長期的に事業を継続するための安定した枠組みを構築すること。考えてみるとこれは、私がそれまでRMとして培ってきた、お客様に向き合う姿勢に通ずる考え方なのです。
緊急時だからこそ、
視座を高く、視野を広く持つ。
―― 危機対応業務もRM業務も同じだと?
本質的には同じだと理解しています。つまりそれは、会社の経営に向き合うということそのものではないでしょうか。入行当初から2年間在籍した企業金融第4部では、海運事業者に対するシップファイナンスを経験しました。そこでは、ボラティリティの高い海運業界において企業の中長期的な競争力をどのように見るべきかといった、投融資業務の基礎となる企業分析や業界分析の手法を一から学びました。2年目には主担当として海外のお客様への大型案件も手がけることができるようになり、ここでバンカーとしての素地が形成されたと思います。
―― 続く中国支店でも、RM業務を担当されていますね。
支店では、地場の様々な経営者と対話する機会に恵まれ、RM担当者としての幅を広げることができたと感じます。特に、経営者の視座を体感する中で、前部署で学んだ企業を見る力を、投融資判断に用いるだけでなくお客様の経営課題に役立てる、そんな意識が高まりました。たとえば、私が担当していたお客様に、社長が代替わりをしたばかりの地域の中核企業がありました。次世代を見据えた経営ビジョンの策定、そうしたお客様のニーズに対し、私は他部署やグループ会社も巻き込んで、そのお客様の強み・弱みを丁寧に分析しながら同社の課題解決と長期ビジョン策定に向けた提案を作り上げていきました。これは直接的に投融資取引に結び付く取り組みではありませんが、地域の有力企業の長期的な成長に貢献するために汗をかくという、DBJらしい取り組みであったとも感じています。
―― ほかに、現在に活きている経験はありますか?
地域のにぎわい創出のため、エリアマネジメントに取り組んだことが挙げられます。きっかけは、とある駅前施設への融資案件。行内で説明をしたところ、「この案件でDBJが求められている役割は資金提供だけなのか」という問いがありました。改めてチームでDBJが提供すべき付加価値について考え直し、人口減少下でこの施設に求められる機能は何か、地域全体のスケールで検討することにしました。その後、行政の担当課や地域の金融機関に掛け合うことでその施設に必要な機能を誘致することに成功し、地域全体の魅力向上というところに寄与することができました。DBJだけの力では決して成し遂げられなかったと思いますが、こうして多数のステークホルダーを巻き込み、プロジェクトを推進していくということを若手のうちから経験できたというのは、今に活きていることの一つだと感じます。
―― つまり危機対応時にかけられた上司の言葉の真意は、「DBJとして当たり前のRMをやりなさい」と。
そう理解しました。危機対応業務も本質的にはRM業務と同じで、急場をしのぐことに終始していたら、上司が言うようにただ資金を出すだけ。緊急時だからこそ、いつものように視座を高く、視野を広く持つことを心掛けること。そうやって中長期的視点に立ってお客様の未来を考え、中立的な立場で関係各位の利害を調整し、DBJの投融資を有効に活用しながら、事業の持続的発展を図っていくと。
厳しい状況を耐え抜く
底支えの役割を、
これからも果たしていく。
―― 危機対応業務の中で、特に印象に残っていることはありますか?
危機対応業務のどの案件にも共通して言えることとして、ニューマネーを提供することももちろん大切なのですが、既存の取引金融機関からの継続的な支援を引き出すことも不可欠です。お客様の事業が一定程度軌道に乗るまでの間は、現状の融資残高を維持するということを確約してもらうべく、各金融機関との交渉には特に力を入れました。金融機関にとってはリスクがあることなので、無論簡単には首を縦に振ってくれません。ですが、目の前のお客様を支えたい、そしてそのためにはDBJが先導して関係者を一枚岩にしていかなければならない。こうした使命感が、私の原動力となっていたように思います。
―― 今回の業務を経験したことで、自身の中で何か変化はありましたか?
配属されてからの半年間で、幾多の新規のお客様と向き合った経験は、間違いなく自分の力になっていると感じています。通常では経験できないほどの数ですし、緊急時ゆえに私が対面するステークホルダーも目上の方々ばかり。こうした緊張感の中で自らが支援の枠組みづくりを主導してきたことで、徐々に迅速な判断、的確な対応も身につきつつあるように感じていますし、自信にも繋がっています。DBJの役割は日本の未来をデザインすることにありますが、その未来の中にはマイナスをゼロにする、厳しい状況を耐え抜く底支えの役割も含まれているのだということを体感し、DBJの本分を再認識することができました。晴れの日も雨の日も、お客様の課題に寄り添いサポートできる担当者として、社会に貢献できればと思います。