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BUSINESS REPORT

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運輸交通

DBJ

運輸・交通

MASAKI HIRAI

平井 将規

PROFILE

都市開発部都市交通班/2013年入行 ※取材当時
企業金融第1部にて化学業界向け投融資を担い、続くストラクチャードファイナンス部では再エネや海外インフラ案件などを担当。その後、業務企画部において危機対応業務・特定投資業務などを担当し、2020年より現職。

画像:平井 将規

大きく変容する社会において、
陸運業界の未来を探る。

―― まずは陸運業界の特徴について教えてください。

陸運と一口に言っても貨物と旅客に大別でき、DBJでは前者を「物流」として分けて考えていますので、ここでは後者、交通手段としての鉄道事業、バス事業についてお話ししたいと思います。まず両事業は、海運や空運と同様、固定資産で成り立っていますので、多額の設備投資が必要な一方、社会に不可欠なサービスでもあるため、採算が合わないからと簡単に撤退できるような事業でもありません。そこで海外では公共サービスとして位置づけられ、「公営」主体となっているケースがほとんどなのに対し、日本では「民営」主体となっているのが大きな特徴です。

―― それは、どういう理由によるものですか?

日本では、特に首都圏を含む都市部において、街づくりとセットで鉄道が普及してきたという歴史が大きく関係しています。鉄道会社は、鉄路を敷設しながら宅地を造成し、スーパーや百貨店といった商業施設等を設けつつ街を形成し、そこにバスやタクシーを走らせることで「生活者」を増やしてきました。また、鉄路の最奥では観光開発も進め、生活者とは別に「来訪者」も増やしていきました。こうして需要を創出することで、本業である鉄道事業を成長させてきたのです。今日、大手鉄道会社が多岐にわたる事業を手がけるのも、またDBJにおいて「都市開発部」が鉄道やバス、タクシーの業界を担当しているのも、日本において都市・地域交通と街づくりは切っても切り離せない関係にあるからです。とはいえ、この日本独自とも言えるビジネスモデルも今、大きなターニングポイントを迎えています。

―― どのような変化が起きているのでしょうか?

足もとで向き合わなければならない課題は、アフターコロナにおける行動様式の変容への対応や、カーボンニュートラルの潮流を踏まえた環境負荷低減の取り組みです。加えて、人口減少や高齢化が進む社会の中において、いかに交通インフラの維持・発展を図っていくか。このように、業界を取り巻く課題は多様化・複雑化しています。

画像:平井 将規

各地で進む事業の更なる多様化。
都市における不動産事業の強化と、
地域における事業継続への挑戦。

―― そうした課題に対し、業界ではどのような取り組みが進められているのでしょうか?

たとえば、首都圏を中心に事業を展開する大手鉄道会社では、不動産事業に対する取り組みを強化しています。従来の不動産開発との違いは、沿線価値を向上させて本業に繋げていくだけでなく、それを「新たな収入源」「新たな事業」と捉えている点にあります。不動産事業の拡大にあたっては、開発した物件を自社で所有するのではなく、不動産流動化を用いたファイナンスにより投資資金を早期に回収し、それを元手に次の開発を進めることで、不動産事業の効率的かつ連続的な成長を図っています。私も担当として、大手鉄道会社の不動産流動化プロジェクトに関与しましたが、都市部ではこうした動きが今後も加速していくことが予想されます。さらに都心の主要ターミナルでは、個別物件のみならず、エリア全体を対象とした大規模再開発が次々と計画されています。多額の資金を要し、複数物件を対象とするこうしたプロジェクトに対しては、個別にファイナンス手法をアレンジするほか、再開発計画に応じた最適な枠組みを模索する必要があると考えています。

―― 対して地域では、どのような取り組みが行われているのですか?

こちらは人口減少に人口流出が加わり需要も減り続けているのですが、その一方で高齢化が進んでいることから、むしろ「地域の足」としての必要性が高まっています。特に地域における交通手段はバスが主体となりますので、車両を小型化することでコストを削減したり、貨物事業との掛け持ちによる「貨客混載」により乗車稼働率を向上させたり、コミュニティバスやAIオンデマンド交通を導入したりと、各地で事業継続に向けた様々な取り組みが進められています。これに加え、近年普及に向けて力が注がれている「MaaS(マース:Mobility as a Service)」も地域課題の解決策として注目が集まっています。これは、一人ひとりの移動ニーズに対し、複数の公共交通機関やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うことができるサービスです。

―― そのMaaSですが、どういったメリットがあるのでしょうか?

これまではスマートシティの文脈で語られることが多かったのですが、今は新たな観光需要の創出という点でも重要視されています。MaaSによって観光地における移動の利便性が向上し、既存の公共交通を利用してのアクセスが容易になれば、これまで交通利便性がネックとなっていた外国人観光客等を含め、交流人口が増加していく可能性もあり、地域交通を担う事業者にとっての貴重な収入源となります。これにより観光地として交通インフラが充実していけば、それは地域に暮らす人たちにとっての利便性向上にも繋がります。それだけに観光地を有する地域においてMaaSは、課題解決に向けた有効な取り組みの一つとなっています。

画像:平井 将規
運輸・交通

メガトレンドであるカーボンニュートラルに向けて、
今こそ業界内のつながりが求められている。

―― 先ほどの多様化・複雑化する業界課題に対し、DBJはどのような取り組みを行っているのですか?

コロナ禍では、交通セクターも非常に大きな影響を受け、鉄道・バス等、過去経験したことがないほどの急激な需要減少に見舞われました。一方、生活や経済活動に必須となる重要なインフラであることから、DBJとしてもしっかり下支えをすべく、危機対応業務等も活用しながら、各社の資金需要に迅速に対応しました。

また、今後については、たとえば鉄道車両の共通化など、企業間の連携を通じた経営の効率化をサポートできないかと考えています。コロナ禍を経て各社とも、より効率的で無駄のない、筋肉質な経営を志向するようになっている中、車両の共通化がうまくいけば、将来的には車両維持にかかるコスト削減等のメリットを享受できる可能性があります。こうした企業間連携の動きを通じて、交通インフラの維持を図っていくという視点も重要だと考えています。

―― ほかにも想定される企業間連携の取り組みはありますか?

バス業界では、電動バスや燃料電池(水素)バスなど環境配慮車両の普及に向けた連携ができないかと考えています。アフターコロナにおけるメガトレンドであるカーボンニュートラルに向け、陸運業界でも様々な議論が交わされていますが、その実現には相応にコストが伴うため、簡単に進められるものではありません。たとえば、従来のハイブリッドバスの価格が1台約3000万円なのに対し、燃料電池(水素)バスは約1億円とも言われています。そこで、各社が共同して車両を導入することで導入時のスケールメリットを享受することに加え、業界全体で取り組み、車両普及の目途を一定程度たてることで電動バスや燃料電池(水素)バスに必須となるインフラ整備も加速させる狙いがあります。

インフラ整備の観点では、電動バスや燃料電池(水素)バスに燃料を供給するステーションの整備が最優先事項ですが、DBJはこのようなインフラ整備を行う企業ともリレーションを有していることから、カーボンニュートラルに向けて、陸運業界のみならず広範な関係者を巻き込んだ取り組みが必要なのではないかと思っています。

―― やはりカーボンニュートラルを見据えた取り組みも重要ですよね。

もともと鉄道業界は、大規模輸送の観点から他の輸送手段に比べて旅客一人あたりのCO2排出量が低く、クリーンな輸送手段として認知されてきました。一方、足もとでカーボンニュートラルの潮流が加速する中ではより一層の取り組みが求められており、電車を動かすために必要な電力がどのように生み出されたか、というのがポイントになってきています。先進的な鉄道事業者では、運営する路線において、その動力を全て再生可能エネルギー由来の電力で賄っています。DBJでは、そうした環境配慮の取り組みにも着目しながら、「DBJ-対話型サステナビリティ・リンク・ローンを提供するなど、企業のサステナビリティ経営の高度化を後押ししています。

また、今後大量の再生可能エネルギー由来の電力が必要となってくることから、再生可能エネルギーの分野でも企業間で連携して共同運営するような仕組みが作れないか考えています。各社単独ではコストやリスクもあり、なかなか初めの一歩を踏み出すことは容易ではありませんが、中立的・長期的な視座で高度な金融ソリューションを駆使して、多くの関係者にとって最適な枠組みを構築し、横の連携を促すのがDBJのミッションです。
※DBJ-対話型サステナビリティ・リンク・ローン:一定のガイドラインに基づき、DBJが対話を通じて、企業のサステナビリティ経営の高度化に資する適切なESG関連目標の設定とその目標達成に向けた支援をする融資メニュー

画像:平井 将規

ノウハウやネットワークを活用しながら、
業界全体を巻き込み課題解決を図る。

―― 今後、DBJはどのような取り組みを進めていくべきだと考えていますか?

先ほどの企業間連携やMaaSの話にも通じるのですが、都市・地域交通においては事業者間の「連携」というものが、今後ますます重要になってくると考えています。さらには、業界を超えた連携という観点も必要です。主要ターミナル周辺の大規模再開発における不動産会社や行政との連携が必要であることはもちろんのこと、環境配慮車両の導入についてはインフラ企業、再生可能エネルギーの活用においてはエネルギー企業との協働もあるかもしれません。また、足もとでは、地域交通の維持に向けて、各地域の交通事業者や自治体、省庁とも連携しながら業界動向を見極め、今後の取り組みについて議論を開始しています。このようにDBJが担うべき役割は、資金面での支援は言うに及ばず、DBJのノウハウやネットワークを活用しながら、ある種のハブとして、一企業や業界の垣根を越えて課題解決に向けて取り組んでいくことであると考えています。

―― DBJらしいチャレンジングな仕事となりそうですね。

そうですね。今後のプロジェクトはいずれも関係者が多いことからも、一筋縄ではいかないと思います。それでも誤解を恐れずに言えば、DBJにしかできない仕事だとも考えています。DBJが持つ業界横断的なナレッジや官民の強固なネットワーク、私がキャリアで培ってきた金融力や多様な経験、これらを総動員して業界の未来を描き、描いた未来を実現できるか。DBJ、そして私自身のキャリアの真価が問われていると改めて思います。