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運輸・交通

NATSUKO SUMIKI

隅木 夏子

PROFILE

企業金融第4部航空・空港班/2017年入行 ※取材当時
企業金融第6部にて観光業界やヘルスケア業界向けの法人営業を担当した後、ストラクチャードファイナンス部にて仕組み金融の専門部隊として空港案件などに多数携わる。2021年より現職。

画像:隅木 夏子

ボラティリティの高い航空業界。
その中長期的な課題とは?

―― 航空業界の特徴、他の産業との違いは何ですか?

一つ言えるのは、経営の安定化が難しい業界であるということです。特徴を端的に表すならば、「派生需要」「装置産業」「規制産業」の3つがキーワードとなります。1点目は、航空需要には出張や旅行に伴う移動によって発生するという「派生性」があり、航空会社が自ら生み出せる需要には限界があるということ。裏を返せば、イベントリスクによる影響を受けやすいという特徴があります。2点目は、装置産業であることから固定費が重いこと。他業界にも共通する人件費や広告宣伝費、土地や建物の賃借料といった費用に加え、航空機を購入・保有することにより生じるコストが上乗せされることが理由です。さらに、固定費と対をなす変動費についても、その大半を占める燃料費がまた、原油価格の変動による影響を受けやすいという点で、こちらもイベントリスク発生時の業況悪化の要因になります。そして3点目は、規制産業でもあるため主要空港における発着枠割当といった、政策変更リスクを負っていること。経営安定化のポイントの一つとして、羽田路線をはじめとした旅客数の多い路線の就航数をいかに獲得していくかも重要で、そのためにも環境配慮などといった空港・エアライン企業としての経営体制をしっかりアピールしていく必要があります。

―― 企業努力だけでは補えない部分があるというわけですね?

そう考えています。新型コロナウイルス感染症の流行というイベントリスクが発現した際、旅客数は大きく落ち込みました。日本の航空業界はコロナ禍前で2億人規模の市場があり、国内線需要がほぼ横這いで推移する中で、インバウンド需要の急速な拡大を背景に伸張する国際線需要とともに成長を続けてきました。一般的に航空需要は経済成長と高い連関性があります。世界的に見ると、航空需要はGDP成長率の1.5~1.8倍で成長してきており、国際線需要が拡張基調にあったコロナ禍前までは日本も世界水準と比べて遜色ない成長率を維持してきました。しかし、変異株等の影響もありコロナ禍が長引いたため、国内線需要はコロナ禍前対比100%の回復まではなかなか至らず、国際線では1割にも満たない状態が続きました。しかも航空各社はコロナ禍対応という短期的な課題と向き合いながら、中長期的な課題にも引き続き取り組んでいかなければならなかったのです。

―― 中長期的な課題とは、どのようなものですか?

日本でも2050年カーボンニュートラルが掲げられていますが、航空業界においてはICAO(International Civil Aviation Organization:国際民間航空機関)という国際的な業界団体において、2020年以降は国際線からのCO₂排出量を増加させないことが目標として掲げられています。そこで航空業界はこれらに対応すべく、SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)の導入や省エネ機材の導入を進めてきましたが、その取り組みはまだ道半ば。さらに、空港においては省エネ化に加えて、慢性的な容量不足や、採算性改善という課題にも向き合っていかなければなりません。そこで仙台空港を皮切りに、福岡空港や北海道7空港などで民営化が進められてきました。コロナ禍対応という短期的な課題が片付きつつある中、今後は滑走路の拡張やターミナルビルの増改築といったキャパシティの増強と、堅固な収益力の確保を両立させて成長していくことが求められています。

画像:隅木 夏子

航空業界全体を下支えしつつ、
常に一歩先を見据えた取り組みを進めていく。

―― DBJはこれまで「航空」や「空港」に対し、どう関わってきたのですか?

島国・日本において欠かすことのできないインフラという認識のもと、最も注力してきた分野の一つであり、それは近年の歴史からも明らかです。「航空」に関して言えば、航空会社の事業再生に取り組んだ経験から、そこで得られた教訓や知見を活かして、その後は航空機ファイナンス分野を拡大してきました。航空機ファイナンスとは、航空機が生み出すキャッシュフローと機材そのものの価値を裏付けとして投融資をするもので、保有する航空機を流動化することにより航空会社の固定費負担を軽くするというメリットがあります。以来、地域の金融機関への情報提供やファイナンス機会提供を通じて、日本の航空機ファイナンス市場全体の底上げに寄与してきました。同様に「空港」に関して言えば、関西国際空港の新設や東京国際(羽田)空港の拡張といった中長期的なプロジェクトにおける巨額の資金ニーズに対し、プロジェクトファイナンス等も時に活用しながら取り組んできました。DBJはこのように、航空、空港、そして航空機といった多面的なアプローチで航空業界に携わってきており、それはコロナ禍においても変わりありませんでした。

―― 具体的に、コロナ禍ではどのような支援を行ったのですか?

たとえば、大手航空会社にはハイブリッドファイナンスを実行しました。これは民間金融機関と連携して組成した劣後特約付シンジケートローンで、資本と負債の中間的な性質を有するファイナンス手法です。財務の安定性を高め、今後の資金調達の柔軟性も確保できるメリットがあります。これにより同社は、ニューノーマル時代の航空需要に対応するための機材更新、システム投資などの成長戦略を実行することが可能となりました。この実例が示すように、DBJが提供する支援パッケージというのは単なるシニアローンにとどまりません。劣後ローンや優先株など多岐にわたる手法を駆使しながら、航空業界全体を下支えする役割を担ってきました。一方で、こうした短期的な課題に向き合いながらも、常に一歩先を見据えた取り組みを進めていくということも忘れてはいけません。

画像:隅木 夏子
運輸・交通

航空2社のホールディングス化と、
空港コンセッションという取り組み。

―― 一歩先を見据えた取り組みとは、どのようなものでしょうか?

「航空」について言えば、それぞれの地域住民にとって欠くことのできないエアライン2社のホールディングス化を支援しました。両社は、独自のブランドを有する地域に根差した航空会社として、強固な経営基盤を構築することを目指して、両社の100%株式を保有する持株会社を設立。DBJは地域の金融機関と連携し、両社が発行する優先株式の引き受けというメザニンファイナンスを通じて、地域交通を支える重要インフラである両社がコロナ禍を乗り越え、更なる成長を遂げられるように取り組みました。私自身、その担当者として事業者や金融機関など多くの関係者と議論しながら支援を進められたのは、DBJならではの役割と実感したところでもありました。事業者の方たちとのコミュニケーションを密にしながら、短期的な取り組みだけでなく、中長期的にESGの取り組みをどう進めていくべきか等、事業者の本質的なバリューアップというものを多角的観点から検討を行いました。

―― 「空港」については、どうですか?

やはり、空港の民営化(コンセッション)というのは一つ大きな流れとして挙げられると思います。DBJが出資者として経営に関与している案件もありますが、私自身はその案件の検討段階において、ストラクチャードファイナンス部の立場から契約書や事業計画の内容を精緻にレビューする役割を担っていました。現在は企業金融第4部にて、旅客数の見立てをはじめとする各種事業計画の前提の置き方について、マクロ動向や他空港・エアラインとの整合性を考えながら、業界担当の立場で運営をサポートする役割を担っています。観光事業者や二次交通との連携、環境対策、デジタル化、外航誘致——。事業運営権を獲得するにあたり提案時に掲げた施策を、着実に実行に移していくためには、まだまだ考えなければならないことが山積みです。先ほどの「航空」の事例と同様、事業者の方たちと目線を合わせながら、私も数字面以外の部分でもしっかり貢献できるように知恵を絞っている最中です。ここで事業者目線を体得できたことはとても貴重な経験だと感じており、今後さらなる国内空港の利便性向上を図ることで、日本の航空・空港の利用促進へ繋げていきたいと考えています。

画像:隅木 夏子

部署として、また「個」としても、
俯瞰的な視座から日本の航空業界の発展に寄与する。

―― 今後、DBJはどのような役割を果たしていくべきだと考えていますか?

冒頭でご紹介した中長期的な課題の解決に向けて、事業者と国、金融機関との橋渡し役を担いながら、業界内の連携を強化させていく必要があると考えています。たとえば、「航空」においては先ほどのSAFが最たる例なのですが、CO₂排出量を大幅に削減できる一方で、その価格は既存のジェット燃料と比較して高価となっているため、「このコストを誰がどう負担すべきか」が業界の懸案事項となっています。1社単独で解決できるような問題ではないからこそ、私たち担当者が国内の各事業者にヒアリングを重ね、またDBJの海外現地法人とも連携しながら各国の先進事例を集約する。そういった中で課題を整理し、ディスカッションのたたき台とすることで、国や事業者と議論をしていきたいと考えています。こうした取り組みを重ねていかない限りは、業界の課題解決も進まないだろうと理解しています。

同様に「空港」においては、「国際的な競争力を高めるにはどうしたらよいか」が、業界の共通課題となっています。ここについても海外の知見を取り入れる余地があるのではないかと思います。

―― それぞれ、海外ではどのような取り組みが進められているのですか?

SAFについて欧米諸国では、国が補助金を出してプラントを建設し、製造コストの低下を促進したり、導入すべき最低限の数値を航空各社に義務として課し、業界全体で取り組むよう促したり、といった検討が進められています。また別のアプローチとしては、CO₂の排出権取引をいっそう加速させるといった施策もとられています。空港については、周辺事業の効率化が挙げられます。日本ではグランドハンドリング等の周辺事業を大手航空会社の子会社がそれぞれ担っていますが、海外ではグランドハンドリングを独立して担う会社の存在が、費用低下に寄与しています。

―― そうした取り組みは、日本にも導入できるのでしょうか。

はい、まさにその点においてもDBJとして役割を果たしていきたいと考えています。先ほどお話ししたSAFの調査がその一助となればと考えていますし、実は2010年代の後半以降、海外空港へのファイナンスも多数手がけてきました。海外の空港は日本に先んじて民営化が進んできたため、先進事例として参考にできることがたくさんあり、コロナ禍への対応についても国内空港との違いが随所に見られました。私は担当者として海外空港もモニタリングしている経験から、海外の優れた取り組みを日本に還元していくということも意識しています。

―― 担当者としてやるべきことがたくさんありそうですね。

それがまた、DBJで働くやりがいであり楽しさであると考えていますし、とりわけ当部の業務は「いかにもDBJらしい」とも感じています。なぜなら、航空と空港、国内と海外とを、一つの部署がまとめて俯瞰的に見ている金融機関というのは、世界的にも希有だと思うためです。さらに私個人について言えば、ストラクチャードファイナンス部で空港コンセッションをはじめとするプロジェクトファイナンスの専門知識を身につけ、現部署において業界のより深い知見を獲得すべく日々業務に励んでいますが、現部署を異動した後もキャリアを通じてなんらかのかたちで航空・インフラ業界には関与していきたいと思っています。加えて今後は、海外案件や投資についてのノウハウを身につけていきたいと考えているところでもありますが、目指しているのは多角的な視点から業界を支援できる人材になること。こうしてDBJらしさに自分らしさも加えながら、これからも日本の航空業界の発展に寄与していきたいと考えています。