Story
INTERVIEW
DBJの人と仕事
未来を変える技術を、社会実装へ。
イノベーションエコシステムの
形成を促す。
MAYU SHIMIZU
清水 麻由
2010年入行
総合職|イノベーション|産業|投資
-
1年目〜
企業金融第2部
電子機器・電子部品等メーカー向けの投融資業務に従事。
-
3年目〜
東海支店
東海4県の各種事業会社向け投融資を担う。風力発電プロジェクトへの大型融資や危機対応融資を通じた東日本大震災からの復興支援に従事。
-
5年目〜
経理部
DBJ全体における資金決済の管理業務に従事。在籍時に出納システムの大型更改も経験。
-
8年目〜
経営企画部
経営戦略の立案に従事するとともに、渉外担当として多様なステークホルダーとの関係づくりに奔走。リスクマネー供給機能の必要性を訴えたことが、DBJ法の改正につながる。
-
11年目〜
企業投資第2部
スタートアップ企業や、プライベートエクイティファンド、ベンチャーキャピタルファンド等へのソーシング活動・出資を経験。
-
13年目〜
業務企画部
イノベーション推進室にて、スタートアップ企業への出資、産官学連携を通じたイノベーション促進支援を実行中。
DBJ全体の営業活動を統括する業務企画部内に2017年、新たにイノベーション推進室が設立された。目覚ましい技術革新や社会課題の複雑化によって、産業構造が大きく変容しているいま、産業を横断し業界を超えた取り組みが必要不可欠だ。その新結合=イノベーションを、触媒となって促すことこそがDBJに求められる役割ではないか——。そうした使命のもと、清水麻由もまた、とある事業の社会実装に向けて奮闘している。
難しくも社会的インパクトの大きな
取り組みを推進する、新たな枠組み。
―― イノベーション推進室では、どのような取り組みを行っているのですか?
外部環境の様々な変化によって産業構造にも変革が起きている現在、従来の枠組みにとらわれていてはイノベーションの創出は困難です。そこでイノベーション推進室では、「新結合を促す触媒として、より良い未来の芽を探索し、共に創り、育てる」というミッションを掲げ、「共創基盤の構築」「事業参画」「未来価値創造」の三つをキーワードとして、業界を超えた新結合、すなわちイノベーションを促進するための取り組みを進めています。
―― それぞれのキーワードの意味は?
これらは相互に関連しているのですが、1つ目の「共創基盤の構築」は、産官学の様々な関係者と、イノベーションを創出するための土壌を創ることで、日々のコミュニケーションにはじまり、出向形式での人的交流やシンポジウムの開催等を通して、共創の基盤となる場づくりを進めています。2つ目の「事業参画」は、こうして構築した基盤を活かし、実際に事業に参画してイノベーションの創出そのものに取り組むことであり、Society5.0挑戦投資※を通じた企業への伴走型支援を行っています。最後に「未来価値創造」は、構築した共創基盤や事業参画経験を活かし、カーボンニュートラル、スマートシティ、防災などといった広範かつ大局的なテーマを掲げて議論し、具体のプロジェクトに落とし込むことでイノベーションエコシステムを創っていく取り組みです。これらの取り組みを通じて、持続可能で、人がより良く、幸せに生きられる未来を創造することを目指しています。
※Society5.0挑戦投資:社会課題の解決に向けて、新産業を創造することを目指し、持続可能でより良い社会づくりに貢献する活動に対して投資する枠組み
―― Society5.0挑戦投資の、具体的な取り組みを教えてください。
この投資制度が対象としているのは、社会実装が実現できた際には非常に大きな社会的インパクトがあると考えられる事業。事業化や収益化に向けたタイムラインを見極めるための長期的な視点が求められますが、DBJが果たすべき役割はここにあるのだと思います。私は現部署への配属以来、WOTA(株)への出資検討に心血を注いできましたが、先日晴れて投資を実行することができました。
大きな可能性を秘めた
スタートアップ企業。
ポテンシャルの見極めが肝要。
―― WOTAとは、どういった企業ですか?
独自の「小規模分散型水循環システム」を通じて、国内外の水問題を抜本的に解決する可能性を秘めた企業です。日本の水道施設の多くは更新期を迎えていますが、それらをすべて維持しようとすると試算ベースで170兆円もの資金が必要とされており、少子高齢化が進む中、自治体によっては今後、従来のような「大規模集中型“インフラ”」である水道を維持することが困難になるという予測もあります。これに対しWOTAが開発する「小規模分散型“システム”」は、1世帯に1台ずつ設置し、排水の98%以上を再生して半永久的に循環利用できるもので、国際宇宙ステーションで使用されている循環装置の水再生率60〜80%をも大きく上回る画期的な装置です。こうした構造転換を通し、地域の財政負担・環境負荷を低減させながら水の自給自足社会を実現するだけでなく、災害時のレジリエンス強化にも役立ちます。日本は水に恵まれた国ですが、少子高齢化に伴う水道財政の悪化を背景に、インフラの老朽化や水道料金高騰が社会問題となっています。また、世界に目を向ければ水不足・水汚染の問題はとても深刻であり、同社が展開する事業はまさに「社会実装できた暁には、国内外で非常に大きな社会的インパクトがあるだろう」と私は考えています。
―― この案件に取り組むうえで難しかったことは何ですか?
WOTAはすでに断水状況下にある災害現場への給水などにおいて実績を上げてきましたが、次なる挑戦として、生活排水の包括的な再利用を可能にする世界初の住宅向けシステムの開発と社会実装を目指しています。出資検討に際しては、これから新たな市場を創っていくにあたり、そのポテンシャルをしっかりと見極め、実現可能性を精査し、社会実装に向けたロードマップを敷いて、DBJとしてどのように貢献していくかを考える必要がありました。これは、お客様が作った事業計画を実績に照らして分析していく従来の投融資案件とはまったく異なるプロセスで、「実現するためにはどのようなロードマップが必要なのか」「それに対しDBJとして何ができるのか」といったことを前向きに考えていくのが、面白くもあり、難しくもありました。
―― そうした困難に立ち向かうモチベーションは何だったのですか?
やはり、WOTAの社長をはじめとして、このプロジェクトに関わる人たちの熱量に共鳴している部分が非常に大きいと思います。自分たちが世界を、未来を変えるのだと本気で思っている。その姿勢には本当に刺激を受けましたし、こういう人たちを応援できなかったら、逆に何を応援できるのだろうとさえ思わせられました。難しい案件ほど、担当者の熱意がないと簡単に頓挫してしまう。そうした熱い想いは、案件を実現させるための一番大切な要素と言っても過言ではないでしょう。この案件も、私自身が必ず実現させるのだという気概を持って臨んだからこそ、こうして無事に出資まで漕ぎ着けられたのだと思います。
一見ゼネラルなキャリアが
いまの自分の最大の武器に。
―― 一連の取り組みの中で、心がけてきたことは何ですか?
「プロジェクトの手綱を引く責任感をもち、主体的に取り組む」ということですね。これを意識するようになったのは東海支店時代だったのですが、いま改めてその大切さを実感しています。当時、若手ながら主担当として取り組むことになった案件の一つに、風力発電プロジェクトに対する大型シンジケートローンがありました。本店の専門部署に頼りきるのではなく、自分がハブになって、行内の各部署を巻き込んでプロジェクトを前に進めていく。ハードに感じることもありましたが、そこで気づかされたのは、主体的に取り組むからこそ生まれる熱意は、賛同してくれる仲間を増やすということ。そして、仲間が増えれば増えるほど、指数関数的にプロジェクトの質やインパクトが高まるということです。
―― そのほか、過去の経験が活きたと感じることはありますか?
東海支店のあと経理部、経営企画部とコーポレート部門を経験しましたが、そこでは「案件を多角的に見る視点」が養われました。経理部の資金決済業務においては、フロント部店の先にいるお客様のニーズを踏まえた臨機応変な対応を心がけたり、経営企画部で経営戦略を立案する際には、各部署がどういう立場で、どのような想いをもって仕事に臨んでいるかに思いを至らせたりすることで、現場にいるだけでは得がたい、俯瞰的な物の見方ができるようになったと思います。これらの経験から、案件をスムーズに進めるためにはどの部署をどんなタイミングで巻き込んでいけばよいかが分かるようになり、お客様にとって最善のチームアップができるようになりました。このように組織の力をテコとして活用することで、WOTAのようにハンズオンのサポートが求められる投資案件においても、最大限の貢献をしていきたいと考えています。
イノベーションの渦の中で、
未来を変える一員になりたい。
―― 今後、どのようなことに取り組んでいきたいですか?
まずはWOTAの技術の社会実装に向けて、フルコミットをしていきたいと思っています。DBJの強みは、多くのステークホルダーを巻き込んでその結節点となれること。たとえば地域金融機関や自治体・官公庁などといった有形無形のネットワークを活用し、役割を果たしていきたいと思います。加えて、個人としても様々な関係者とのネットワーキングは性に合っており、ある種のライフワークとして取り組んでいます。個人的なイノベーションエコシステムの形成というと大袈裟ですが、人と人をつなぐことで、何か新しい価値を生み出せたらと思います。
―― それは、どのような理由からでしょうか?
前部署の頃から起業家やスタートアップ企業の経営者と意見交換を行ってきて肌で感じているのは、今後の日本の産業構造を大きく変えうる技術、すなわち事業の“種”が、この国にはたくさんあるということ。にもかかわらず、それらが社会実装されないのはどうしてか。それは、そうした基礎技術を社会実装まで仕立てていく過程において、「このバトンを次に誰に渡せばいいのか」「どこがボトルネックとなっているのか」がそれぞれの視点からしか捉えられず、全体感をもってゴールまでバトンをつないでいくことが難しいからです。かつての日本の勝ちパターンの前提であった「縦割り」が通用しなくなってきているいま、横でつながるための場づくりをする役割が、これまでになく求められていると感じます。
―― 最後に、どうしてイノベーションが必要だと考えますか?
これまで私は、「足るを知る」という考え方をしており、必ずしも経済が飛躍的に発展しなくても、いまある資源を有効活用し、そこそこで暮らしていければ幸せではないかと思っていました。けれどもイノベーションエコシステムの中にいる人たち、とりわけスタートアップ企業の若き経営者たちと話す機会に恵まれたことで、その考え方は一変しました。彼らは皆、日本の未来に大きな希望を抱いている。イノベーションによって社会課題を解決できれば世界を変えられる、それを自らの手で実現するのだという強い気概を持っているのです。このような視座をもった、自分と同世代の人たちとの数々の出会いは、私にとってかけがえのない財産です。イノベーションは、どんな境遇にいる人たちにも新たな挑戦や豊かな暮らしのチャンスを提供できる――。そんな可能性をもつことを実感できたからこそ、これからもイノベーションエコシステムの一員として、人と人とを有機的に結びつけていく触媒機能をしっかりと発揮し、誰もが幸せに暮らせる社会の実現に寄与していきたいと考えています。